第25話 当日


 「ただいま」


 「・・・お帰り」


 乙葉が、部屋に戻ると、美咲が迎えてくれた。不安そうな表情で乙葉の顔色を眺めている。


 「・・・私になにかできることない?」


 「大丈夫だよ。ありがとう」


 乙葉は笑顔を浮かべて、素直に感謝を述べた。


 (本当に、ありがとう)


 「大丈夫なのね?」


 「うん」


 「なら、よし!」


 そう言うなり、美咲は部屋の中に入っていった。乙葉もその後に続く。


 「・・・・布団、ひいておいてくれたのか」


 中には2つ、布団が引いてあった。乙葉が出ている間にやってくれていたのだろう。


 「うん。さ、もう寝よ?」


 「そうだな。明日もあるし」


 2人は、それぞれに明日の用意などを済ませ、布団に潜り込んだ。2人の距離はほとんどない。


 しばらくは2人とも何もしゃべらず、部屋には沈黙が落ちていた。


 (さすがに、霊力開放後は疲れる・・・・・)


 「・・・・起きてる?」


 乙葉がウトウトしていると、隣から声が聞こえた。


 「起きてるよ」


 「そっか。・・・いよいよ明日なんだね」


 真っ暗な部屋で、美咲がぼそりとつぶやいた。


 「そうだな。いつも通りにやれば、大丈夫だよ」


 「そ、そうなのかな・・・・」


 「自信ない?」


 「・・・・うん。初めてだし、緊張してる」


 「今から緊張してたら体がもたないぞ。それに、練習でできたんだから、本番でもできるさ」


 「・・・うん。うん、そうだよね。ありがと」


 「ああ。」


 「おやすみ」


 「ああ、おやすみ」


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 翌朝。乙葉は早朝に起き出した。


 「・・・・ふあ」

 

 ふと隣を見ると、美咲が寝ている。少しはだけた浴衣から、肌が見えそうになり、乙葉は慌てて目をそらした。


 「・・・・修行不足め」


 自分を自分で毒づきながら、布団を片付け、持ってきていたジャージに着替えた。


 懐中時計を握り、鴉を呼び出す。


 (おい、起きろ)

 

 «・・・・・・»


 (起きろ)


 «・・・・・»

 

 (・・・・ハゲ)


 «誰がハゲじゃい!»


 (あ、起きた。俺は少し出てくるから、美咲の警護頼む)


 «ふえ? わ、わかった»


 まだ半分寝ぼけていそうな鴉を置いて、乙葉は外に出た。旅館前で軽くストレッチをして、昨日の神社めがけて走り出す。


 「・・・・・・」


 走りながら、体調を確認する。軽く霊力を操作してみて、異常がないかを確かめた。


 (・・・・大丈夫そうだな)


 乙葉は、スピードを上げ、昨日の神社を目指した。20分も走っていると、石段が見えてきた。


 「ここっぽいな」


 石段を上がり、境内を見据える。


 (ないとは思うが、昨日の霊力で悪霊でも湧いてたら消さなけきゃな)


 ※次回更新 5月2日 土曜日 0:00

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