第24話 オーバーヒート2


 「はあ、はあ、はあ」


 (やばい、体が火照ってきた・・・)

 

 ふらふらと通りを歩いていると、少ないながらも周りの人たちが奇異の目を向けてきた。


 (確かに怪しいよな、俺)


 なんとか愛想笑いを浮かべ、乙葉は裏路地に入った。人がいないことを確認して、その場にへたりこむ。


 「・・・・鴉」


 «ここでは無理じゃぞ。そこら中に霊がいる。下手に霊力を解放してみろ、悪霊化するに決まっておる»


 「なら、どこならいいんだ?」


 切羽詰まった状態で、乙葉は懐中時計に話しかけた。


 «どこかしらの神社で、お許しをもらって解放するしかないだろう。神社は聖域だから、悪霊の類は生まれもしないし、入れもしない»


 「・・・そうだな。なんとか、歩いてみるよ」


 乙葉は、美咲からもたせてもらった携帯を取り出して、検索をかけた。霞む目で、なんとか位置を把握し、歩き出した。


 --------------------------


 「ふ、うう。・・・ここか」


 長い階段を上がり、乙葉は鳥居をくぐった。まっすぐに境内を目指し、歩いた。賽銭箱の前で止まり、懐中時計を手首にかけ、手を合わせた。


 「お許しを」

 «お許しを»


 乙葉の目が閉じられ、集中力が高まる。懐中時計の針が高速で周り始め、乙葉の体が光を放ち始めた。


 キイイイイイン


 小さいながらも、超音波のような音が響き、乙葉の体から霊力が放たれていく。


 ポタ、ポタポタ


 乙葉の額に浮かんだ汗が地面に吸われていく。時計の針は高速回転を続け、音も響き続けている。


 --------------------------どれほど、そうしていただろうか。


 しばらくして、乙葉の体からの発光が収まり、乙葉はその場で膝をついた。


 「はああああ。・・・・疲れた」


 «それはわしのセリフじゃ»

 

 「ごめんごめん」


 乙葉は疲れ切った体に鞭打って立ち上がり、手を合わせた。


 「境内をお騒がせしました」

 «お騒がせしました»


 鴉とともに感謝を捧げ、乙葉は帰るために振り返った。懐中時計をしまい、携帯を取り出す。


 電話帳から目当ての番号を探し出し、電話をかけた。


 相手はワンコールで出た。


 『もしもし⁉』


 「美咲?、乙葉だけど」


 『うんうん! 大丈夫なの⁉』


 乙葉の脳裏に、慌てている美咲の姿がはっきりと浮かんだ。


 「うん、大丈夫。これから帰るよ」


 「よかった~。す・ぐ・に・帰ってきてね?」


 「・・・・はい」


 思いっきり釘を刺され、電話を切ると、鴉が茶化してきた。


 «ケケケ。見事に尻に敷かれてるのう»


 「・・・・・」


 黙っている乙葉の表情は、いつになく穏やかだった。


 ※次回更新 4月29日 水曜日 0:00

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