スケルトン成長記録五日目

スケルトン成長記録五日目


とある街の虐殺事件が起きた夜の次の朝。


豪邸の会合を虐殺したスケルトンは多くの魔素を吸収し、また成長した。これにより、スケルトンの体質が変化し、「昼活動」を取得。朝の日差しを受けても身体が砕けなくなった。更に成長速度が上がるだろう。


更に、多くの人間を殺した事により要人もそうだが、必要以上の金が集まった。これで武器屋の店主に十分な金が返せるだろう。


会合虐殺事件が起きた街は、昼から豪邸に多くの騎士が集まり、様子を見ようと野次馬が集まり、騒然としていた。


「一体昨日何があったんだ……?」


そんな野次馬の中にスケルトンはさりげなく混ざり、今日は何をしようかと考えながらその場を立ち去った。


先ずは武器屋の店主に金を返さなくては。スケルトンは真っ先に武器屋に向かう。


──────────────


武器屋の扉を開けると、街中は騒ぎで真っ最中だと言うのに、相変わらず怠そうにカウンター奥の椅子に店主は座っていた。店主はスケルトンの入店を見るに立ち上がり、面倒臭そうに声を掛ける。


「いらっしゃい……ったく……なにが会合虐殺だ。こんな煩くっちゃあ、商売なんて出来ねぇよ……」

「カラカラ……(ツケ。持って来たぞ)」

「あ……?…………あぁ〜そういやそんな事あったなぁ……で?どれくらい持って来たの?」

「カタタ……(これで良いか?)」


スケルトンはカウンターに会合の要人や上級兵士から集めた大量の金貨が詰まった袋をドサッと置く。


「なっ!?……舐めてんのかてめぇ?」


店主はあまりの金額に一瞬驚くが、そんな大金を当たり前かの様に置くスケルトンに馬鹿にされたと思ったのかスケルトンをにらむ。


だが、スケルトンはこれで初めての金を手にした為、店主が驚いてもその価値が分からなかった。ただ頭の上には疑問の「?」しか浮かばない。


「あのなぁ……ッチ……もう良い……」


店主は金袋から三枚金貨を取り、スケルトンを帰らせようとする。


スケルトンは店主が自身を帰らせようとする意味も分からず、質問をする。


「カタカタ……?(どうした?何故帰らなければならない?金はそれだけで良いのか?)」

「……はぁ……てめぇマジで分かんねえの?ったく仕方ねぇなあ……まぁ、最初見た時から、この街の人間じゃねぇって事は薄々気付いてはいたが……まさか金の価値すら分からねぇとはお前どっから来たんだ?」


スケルトンは所在地と金の価値の理解の有無の関係も分からず、つい正直に答えてしまう。


「カラカラ……(土の中だが?)」

「は?…………っぷはははは!土の中ぁ!?てめぇは、ゾンビかっつうの!お前、面白え奴だなぁ……もう良い。教えてやる」


『金の価値』それは、この世界の金銭の事だった。この世界には殆どの国や街、村で白金貨、金貨、銀貨、銅貨が流通しており、白金貨が最も高い。


銅貨千枚で銀貨一枚。銀貨千枚で金貨一枚。金貨千枚で白金貨一枚と、それぞれの硬貨が千枚集まる事で次の硬貨に換えられると言う。


また、スケルトンのいる街の物価に依るが、この街では、一日の生活に必要な金は銀貨一枚有れば充分とされている。


普通に見せの手伝いとして働けば多くて銅貨五〜六枚。商売で働けば国から銀貨二〜三枚が支給され、国民を守る騎士で有れば実積を積めば、金貨一枚も貰えると言う。


ならば金を稼ぐなら騎士をやれば良いと思うが、騎士は民の命を守ると同時に自身の命を掛ける仕事であり、『実績と経験』が無くては話にならない。最初に入隊試験やら長い訓練がある為、『金を稼ぐ為に』と言う理由で進んで騎士に入る者はそうそう居ないらしい。


だから実績さえ積めばの話だが、白金貨の大金持ちになる事も無理では無いと言う。


「という訳だ……分かったか?」

「カタカタ(十分に分かった)」


スケルトンは店主の目の前に置いた金貨の袋を見ると、直ぐに取り下げる。


今スケルトンが持っている所持金は、金貨三百枚。つまり、騎士の中ではそれなりの実力者か、商売で大成功した者程という事だ。


ならば話しは早い。この金を使えばこの町に拠点をつくる事は容易いとスケルトンは考える。


確かに成長も重要だが、それを如何に死なずに続けられるか否かも重要だ。


スケルトンは武器屋を後にすると、街の役所へ真っ先に向かい、役員に金袋を渡しこう言う。


「カラカラ……(家をくれ)」

「え?……あははは……」


あまりの突然の事に役員は暫くの沈黙の後、苦笑いで返した。


何か言い方を間違っていたのだろうか?スケルトンは役員の次の言葉を待つ。


「……えーっと……住居が欲しいという事ですよね?それなら、望む環境にどんな家が良いか教えて下さい」

「カタタ……(何でも良い。この金で見積もれる物なら……)」

「な、なるほど……なら……一つ、つい昨日の夜一気に値段が下がった物件がありましてね……金貨百枚で買えますよ」


役員は少し申し訳無いと思いながら一つの物件の資料をスケルトンに手渡す。その資料とは、正にスケルトンが会合を制圧したあの豪邸だった。


しかし、スケルトンは特に会合を制圧した事も気にせず、広ければ其の内役に立つ時が来るだろうと信じて、豪邸を金貨百枚で買うと決めた。


「カタカタ……(これだ)」

「え……いいんですか?此処……昨日沢山の人が……いいえ!何でもありません!」

「カラカラ(大勢が死んだ。曰く付きだと言いたいのか?)」

「え……まぁ、そうですねぇ……あれ程話題になった事件の直後ですし……」

「カタタ……(安心しろ。慣れてる。いや、好都合だ)」


スケルトンは大勢の人間を殺したこの豪邸を一つの実験として使おうと考える。あれ程大量の魔素を吸収していれば、力を付ける以外の事が出来ると。


「好都合……?はぁ……貴方がそうおっしゃるなら止めはしませんが……」

「カラ……(買う)」

「では、金貨百枚……丁度お預かりします。言い忘れましたが、流石に死体の処理と居住可能に最低限の整理はされていますが、一応誰かが住むと想定していない為、お払い等はしていません」

「カラカラ……(十分だ。それでいい)」


そうしてスケルトンは曰く付きの豪邸を購入すると、直ぐに豪邸へ向かった。


──────────────


豪邸に到着。朝は沢山の野次馬と捜査する騎士が豪邸を囲んでいたが、昼の今は、不気味と言える程静まり返っていた。


そこで早速スケルトンは、魔物特有の気配を察知する。魂だ。それも悪霊。豪邸の空気をも圧迫するその悪霊は、特にスケルトンへの悪意が凄まじかった。


スケルトンはその状況に微笑む様に静かに顎を鳴らす。


スケルトンが行いたかった『実験』とは、眷属の召喚だ。実は死体が残っていれば更に良条件だったが、それもその筈叶う訳が無い。


スケルトンは豪邸に入ると、最も悪意が濃いであろう四階の会合場所。円卓会議室に向かう。


円卓会議室。かつて要人の会合場所だったそこは、スケルトンが虐殺。百人を超える警備兵と九人の要人。全て一人残らず殺した。


そして、今やそこは恨みと怒りの悪意が渦巻く憎悪の空間となっていた。他の部屋とは格段に違う空気は、魔物であるスケルトンでさえも、体を砕き潰そうとする圧迫感を感じさせる。


「カ、カカカ……(予想以上だ……)」


スケルトンはその異常な空間に感動する。本来なら魂一つ一つを眷属化させようと思っていたが、この魂を一つに纏めて強力な魔物を作っても良いと考える。


直ぐに実行へ移す。やり方は簡単。魔王の様に大それた魔法陣を描く必要は無い。魔物は一つの型に多量の魔素が集まる事で、魔素が可視化し、形成される事で召喚される。


つまり、今この空間にある魂を魔素の代わりとし、形成の際にスケルトンの魔素を混ぜれば、立派な魔物が出来上がるという考えだ。


「カラカラ……(始めるか……)」


スケルトンは魔素で型を作り、魂を一つに集め始める。が、流石は悪霊。スケルトンに凄まじい恨みを持つ魂達は、聞こえる筈がない声を部屋中の空気と壁や床までも揺らす程叫び、抵抗する。


「オオオオオォォォォ!!!」

「カタカタ(これは参ったな……)」


もし此処に呪術系の魔物が居れば少しはこの抵抗を鎮められていただろうと、スケルトンは参る。


だがそれも一体の魔物として召喚した魔王は、スケルトンが眷属を作るなど想定していないだろう。そんな都合良く呪術系なんて用意出来るはずが無い。


そう諦めたスケルトンは、魔素で無数の魂を型に収める為に、外回りに壁を作り、圧縮し、無理矢理魂を抑え込む。


「カタタ……(それも仕方が無い。無理矢理でもやるしか無い)」


そして、圧縮された魂は漸く形成を始める。このまま形成を放置すると、集合体系の魔物、魂の集合体が出来上がってしまう為、スケルトンは更に魂一つ一つの核を繋ぐ様に形成を魔素で手助けする。


魂と魔素が融合し、形成されて行くその形は、段々と人間に近い物へと作られて行く。


そうして作られた魔物は、限りなく人間に近い四肢と頭に骨と肉、皮膚があり、深く黒い髪は腰まで長く、背中に紫色透明の透き通った魔素が流れ込む二つの翼を生やし、白目もすべて真っ黒の目を持った造形だった。


魔物。いや悪魔と言って相応しいその成りは、またスケルトンを感動させる。


「カタカタ!(素晴らしい)」


スケルトンは、召喚されたばかりで眠る魔物に名を付ける。


『ディアブロ』


命名された魔物ディアブロは、目を覚まし、一つの言葉だけ発して、スケルトンの前を飛び去る。


「我が名はディアブロ。魔王に忠誠を誓わん……」


召喚した魔物は、例え眷属であっても勝手に使役してはならない。それは魔王からの離反であり裏切りとなる。先ずは魔王との忠誠を誓わなければ魔物とは認められない。


スケルトンの成長記録は此処で一時終わる。まだ強いと呼べる程では無いが、次の成長記録はスケルトンと魔物として認められた眷属ディアブロの成長記録を書かねばならないからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔物達の成長記録 Leiren Storathijs @LeirenStorathijs

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ