スケルトン成長記録四日目

スケルトン成長記録四日目

〜成金捜索中〜


武器屋から暗殺に適した武器を貰ったスケルトンは、直ぐに見える豪邸を目指した。


豪邸到着。豪邸は四階建てで、囲むように作られた巨大な外庭と正面に大きな噴水広場。煌びやかな装飾から水が流れ出る噴水の真上には、恐らく、ここの豪邸の主だろうと思われる『男の金像』が建てられている。


「カラカラ……」


いざ侵入開始だと歩を進めるスケルトンはもう一度豪邸の周囲を見て足を止める。


豪邸の全ての窓からは中から光が漏れており、周囲は警備員だらけだ。それは、検問所の厳戒態勢とは比にならない厳しさだった。


スケルトンがいる正門から見えるだけなら警備員は正面庭と噴水広場に十六人配備、屋上から正門と周囲を見張る狙撃手が四人。全員で二十人も居る。不法侵入者を絶対逃さないようだ。


更に、警備員一人一人は装備が薄い一般兵士ではなく、全員黄金の鎧を纏う如何にも上階級とみえる兵士ばかりだ。武器は斧や槍、遠距離武器は鉄砲と一撃でも攻撃をくらったら一たまりも無い。


スケルトンは正門から堂々と侵入しようとすると、正門の警備員に止められる。


「申し訳ありません。現在こちらは関係者以外の立ち入りは制限しております」

「カラ……(なにかあるのか?)」

「申し訳ありません。それはお伝え出来ません。今日の所はお帰り願いないでしょうか?」


スケルトンは正面から入れるように理由を捻る。


「カタカタ……カタ(今すぐ領主に届けなくてはならない手紙があるんだ。しかしこれは絶対関係ない人には見られてはならない)」

「今すぐに……ですか?申し訳ありません。それでも今日は……」

「カタカタ!(命に関わる問題なんだ。今すぐ通してくれ)」

「くっ……分かりました。なら同行しますので、領主様に直接渡してください」

「カラ……(恩に切る)」


何故正面から入るのか。それは、厳重な警備だからこそだ。ここまで厳重警備なら警備員達は正門より裏口や侵入可能な場所は必ず警備しているに違いない。しかし、正門から正々堂々と侵入する者と言ったら警備員が想像するなら『関係者』だろう。


スケルトンはどうにか無関係者ながらも重要人物として豪邸の中に入る事に成功する。そして、中の入り口付近には警備員がいない事に気付くと、直ぐに同行していた警備員を後ろから後頭部目掛けて武器屋で買った短剣で首を搔き切る。


首を描き切ったスケルトンは満足気に武器を見て買って良かったと安心する。


それは、短剣には敵を素早く仕留めるという長所と至近距離に近づかなければならないという短所があるが、短剣は短い剣として特に重装備の敵には大いに有効だからだ。


威力も少ない、切れ味もそこそこ。なのに何故重装備に有効か。それは、『確実に急所を狙える』からだ。どんなに重装備をしていようが、それを人の手で掻き分け急所を露わにする事はとても簡単だ。


警備員を殺したスケルトンは殺しの余韻に浸るのは後にして、すぐに重装備の警備員を担いで入り口の脇、内側からしか見えない辺りに置いた。


ここでスケルトンは気付く。重装備の警備員の鎧を着れば何処言ってもやり過ごせるのでは無いかと。


スケルトンはここで知能を身につけた事に顎を鳴らし笑いながら、警備員の装備を自分に身に付ける。


・・・・・・若干動きが鈍くなるスケルトン。例え筋肉が無く、魔素の力だけで動くスケルトンでも当たり前だが重力には引っ張られる。なので、他の警備員よりも動きは遅く、鎧を着た事が無いようなぎこちない動きが、返って一際目立つ。


ガシャガシャと重い金属の音を立てながらこの豪邸で金を持ってそうな人間の場所を目指そうすると、豪邸の中の警備員がスケルトンを見つけ、早速話しかけてくる。


「よ、お前何してんだ?んな入り口に立ち止まって……。もう交代の時間だっけ?」


交代時間……恐らく外の警備と中の警備が交代される時間の事を言っているのだろう。しかしここでとぼければ逆に怪しまれると思ったスケルトンは、無難に生理現象だと答える。


「カラカラ……(いや、トイレに行きたくてな)」

「なぁんだ。全く……今確かお偉いさん達の会合やってんだっけ?もう中の警備は重苦しいからさ、早く外の空気吸いたいと思ってたのによ……」

「カラ……(希望に答えられなくてすまないな)」


『会合』……この言葉を聞いてスケルトンは外と中の警備がここまで厳重だった事を改めて知る。


「カタタ……(一体中で何話しているのか)」

「しらねぇよ。会合は四階の中央の部屋でやってるから目の前警備してる奴に聞いたら?ま、教えてくれる以前に近づく事すら許されねぇんだろうけど」


『四階の中央の部屋』……スケルトンはにやりと笑うかのように顎を静かに鳴らす。


スケルトンは、門前払いを経験済みの警備員が会合の内容にかなり興味を持っているのだろうと考え、この豪邸に侵入した時の文句を警備員に伝え、会合を覗く事を促す。


「カタカタ……(なら覗いて見るか?じつはさっき、会合に届けなくてはいけない手紙を受け取ってな)」

「ちょ、マジかよ!それってめっちゃ重要なやつじゃん!」

「カタカタ!(これがあれば、まず門前払いされる事は無いだろう)」

「いや……待て。その手紙、宛先は分かるのか……?何にも書かれて無いようだけど……」


此処でスケルトンは自分の失態を思い知らされる。宛先が分からなくては、重要な会合に侵入出来ない!


「カタタ……(どうしよ……)」

「こうなったらしょうがねぇ……お偉いさんの名前誰でも良いから書くぞ」

「カタ……?(分かるのか?)」

「おうよ。会合つっても要はサミットみたいなもんだからな。有名人の名前は分かるぜ。えーっと確か……アルド・アルマン。ヤベェ兵器の開発者だ」


警備員はささっと手紙に名前を書くと、スケルトンに渡す。


「じゃあ行くか!」

「カタカタ!(あぁ)」


スケルトンは警備員の案内により、会合所前の扉に来る。すると、やはり会合の担当警備員に止められる。


「おい、此処から先は何人たりとも通せない。分かるだろ?」

「カラカラ……(この手紙を……アルド・アルマンに)」

「ん?手紙?なら俺が直接届けようか?」

「カタタ……(いや、誰にも聞かれていけない、見られてはいけない話だからな。出来れば呼び出して欲しい)」

「ふーん……まぁ、聞くだけ聞いてみよう」


警備員は、手紙を受け取ると会合を行なっている部屋の扉をそっと小さく開き、隙間を通り抜ける様に入っていった。


会合場所に入っていった警備員は、円卓に数人向き合いながら座る要人達の周りをぐるり回り込み、アルド・アルマンの座る席に立ち、手紙を渡しながら耳元に囁く。


「アルド・アルマン様……貴方宛に手紙です……また差出人から何か話しがあるようなのですが、少しだけ時間を開けて頂けないでしょうか?」

「あぁ?お前、今どんな時だと思ってんだ?」

「とても大切な時である事は承知の上です。ただ差出人がどうしても話したいと……」

「差出人は誰だ?」

「あ……名前は聞いてないです……」

「ッチ……しょうがねぇな。知ってる奴だったら顔を出してやる。扉から顔だけ出せと言ってこい」

「了解しました……」


警備員はアルド・アルマンから離れ、スケルトンの元へ戻る。


「なぁ、名前はしらねぇけど、その扉から顔だけ出してくれってさ」

「カタカタ……(分かった……)」


スケルトンはここで静かに顎を鳴らし笑う。名も顔も分からぬ人に顔だけ見せろとは、顔だけで判断出来るほどかなり人脈が広いのかと想像する。


スケルトンは言われるまま頭だけを会合所の扉から出すと、アルド・アルマンがじっとスケルトンの方を見つめていた。


スケルトンは鎧の兜をゆっくり持ち上げ、その頭蓋骨を露わにし、眼球の無い暗く吸い込まれるような目から赤い目を光らせる。


アルド・アルマンはその顔を見て、静かに目を見開き、冷や汗を一つ流す。


「おい嘘だろ……何で……此処に……?」


アルド・アルマンは、唾と息を呑んでから円卓の席を立ち、一言言ってからスケルトンの方へ向かう。


「緊急だ……すぐに終わる……少し待ってくれ」


アルド・アルマンは兜を被り直したスケルトンと対峙すると暫く沈黙の間が入る。先に声を上げたのはスケルトンだった。


「カラカラ……(さて、何故俺が此処に……何故魔物が会合の目の前に居るのか気になるだろう。ただしその疑問には答えられない)」

「何をしに来た……」

「カタカタ……(全員魔王の下に付け、逆らえばお前の首を会合に渡し、虐殺する)」

「ふっ……脅しか?」


アルド・アルマンは、スケルトンは冗談を言って居ないと察しながらも苦笑いしながら聞き返す。


「カタタ……(安心しろ。抵抗するなら被害はもっと拡大するだけだ)」

「……どう伝えれば良いのだ……」

「カタカタ……(簡単だ。俺はお前の首を渡して、魔王が脅威である事を俺が伝える)」

「待て、どちらにせよ俺は殺されるのか?」

「カラカラ……(殺されない選択肢もある。だがお前にできるか?全員に魔王に屈せよと伝えるのだ。出来れば、魔王は全員を歓迎し、魔族化させるだろう)」

「チッ……クソがぁ!全員!魔物の侵入だぁあ!!」


魔族化も人間を辞め、他の人間とは疎外される存在となる事。殺されると同様である。やはり選択の余地は無いと理解したアルド・アルマンは、スケルトンを蹴り飛ばし、叫びながら警報を鳴らす。


「カタタ……(やはり人間と魔族は分かり合えない……分かっていたことだが、とても残念だ)」


スケルトンは首を横に振り、呆れながらも蹴り飛ばされ倒れた体を直ぐに起こし、助走を付けずに地面を蹴り、飛び込む様に逃げるアルド・アルマンの背中を貫く。


「がぁっ……!」

「カタカタ……(虐殺だ……)」


警報が鳴り響く豪邸の警備は、真っ直ぐにスケルトンに向かって武器を振るう。


戦闘知能を持つスケルトンに取ってはそんな状況も好都合だった。四方八方から飛んでくる剣撃を巧みに短剣で弾き、隙の開いた兵士には空かさず急所の首を切り裂く。


多数の剣交える混乱の中、首から血飛沫を上げながら死ぬ兵士は為す術も無く倒れ、助けが来る事も無く次々と倒れ絶命する。


この混乱のお陰でこの豪邸で行う筈だった会合は失敗。さらに、会合参加者である全ての要人も死亡。


後に、史上最悪の事件と、人間達の話の中で取り上げられる事となった。


「カタカタ!」


死屍累々の豪邸に一人残るスケルトンはただ笑っていた。

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