「トーカさんのいない56日目」
この日はトーカさんは朝からバタバタしていました。
トーカさんは病院にばれないように、ナースさんたちにはひみつの方法でいつもAmazonを注文していましたが、一体どれだけの量を運ばせていたのでしょうか。ラウンジの隅がつぶされたAmazonのダンボールばかりになっていました。(ところで段ボールの段って、なんでしょう)
荷物も大変なもので、山に登るのかと思うような大きなリュックいっぱいに、ラウンジにひろげたスーツケースの中の物をひたすら投げ入れていました。
この病院は退院時に時間がかかるのですが、「保証金の方が高くて、いくらか戻ってきたよ。この金で、まっすぐ王将に行くんだ」と言っていました。
入院中は「餃子の王将で天津飯、餃子、それとサイダーを頼んだんだ。店員に聞き返されちまった」と言っていましたが、今度は間違いなくビールでしょうね。
あまりに重そうだったので、何人かで仕方ないなと駅まで運ぶのを手伝いました。途中、公園で美味しそうに煙草を吸っていました。ゴロワーズというのでしょうか。私は電子タバコのglowしか吸わないので、残念ながら味はわかりませんが、今度会ったら一度試してみようかと思います。
夜のお菓子会。退院したとーかさんはもういません。思えば、とーかさんはいつも欠かすことなくお菓子会にいたのではないでしょうか。かならずいたきがします。うん、行ってしまったのだなという感じ。
さて。
私は退院が31日に決まりました。入院から30日か、60日で退院していく人がほとんどなのですが、やはり月を跨ぐと、入院費がかかってしまいますので、58日になります。
4人のテーブルを、いつものように7つか8つのイスで囲んでいます。とーかさんがいつも座っていたラウンジのイスに、この夜は若い女の子がひょいっと座っていました。時々、歩いているのを見かけたような気もするし、見かけなかったような気もします。まだ10代なのかもしれません。
目が少し赤いようにも見えます。
私の名のように。
どこかで見たような。
どこかで。
また、
どこかで。
終
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