詩コン 8月号


『辛』2020.8.1


幸せを装うな


幸せを掠るな


◇ ◇ ◇

似てるじゃないですか。見た目。

以前(確か中学くらい)、友人と「ダザイのザイの字の中身どっちだったけ?幸?辛?」というような話になりまして、その際私がなんと言ったかといいますと「太宰が幸せなわけがないので辛」と言いましたね。失礼。

◇ ◇ ◇


『辛』2020.8.1


針を刺すような痛み


針を刺してズズズッと引きずるような

ひきつれた痛み


この痛みを

忘れないように

失くさないように

思い出せるように


傷痕に真っ赤な涙を流して

目に見えるように残す


針を刺すような痛み


これは罪だと言うように

お前の罪だと言うように


針を刺してズズズッと引きずるような

ひきつれた痛み


安心してよ

忘れないし

失くさないし

思い出す


そのために残したから

これは僕の罪だから


針を刺すような痛み


針を刺すような痛み


◇ ◇ ◇

「Hey!新漢語林!辛を調べて」をしたところ、「入れ墨をするための針の象形で、つらい・つみの意味を表す」ってな記述を見つけたのが発端です。どんなに似ていても文字のカタチの由来は手かせの「幸」とは違うんですな。

入れ墨反対派ではないのですが(促進もしませんけれど)、自分の創作内で入れ墨を入れさせたことはまだない気がします。こう、自分の中の社会観念と創作設定の関連ってなかなか切れませんよね。

◇ ◇ ◇


『玉』2020.8.8


とんっ……

 ころ

  ころん

   ころ

    ころ

     ころろろ

      ころろろろろろ

       ころろろろろろろろろろ……

       カツンッ

       ピシッ


◇ ◇ ◇

縦組み推奨です。ころんころん転がります。

「球」ではなく「玉」だったのでひびを入れてみました。

こういう、視覚的な遊びをいれたものってなかなか思い付かないんですよね。もうちょっと引き出しを増やしていきたいです。記号とか顔文字とかの大胆で斬新で面白い使い方も。

◇ ◇ ◇


『麦』2020.8.16


僕は知らない

なんとなく知っているようでいて

なんにも知らない

どんな手触りなのか

どんなにおいがするのか

手折るのにどれだけの力が必要なのか

一度踏んでも起き上がるのものなのか

凛と佇む群の下には亡国が眠っているかもしれないけど

本当に黄金色に見えるのか

大麦と小麦の違いさえも

僕は知らない


◇ ◇ ◇

麦ってあまり知らない。それだけの話。

亡国の件はといいますと、Hey!広辞苑です。ほぼ毎回Hey!広辞苑or新漢語林してるんですけど詩作に繋がるかはまちまちです。知識は増えます。で、亡国がどこから出てきたかというと、周の代になって殷の廃墟を通り、そこに麦がえているのを見て作った詩から亡国の跡という意味を持つ「麦秀」という言葉を見つけたからでございます。ほえぇ~。

◇ ◇ ◇


『暑』2020.8.22


さっき降った雨はもう乾いたのに

汗は一向に乾かなくて

ささやかな風に体を冷ます力はなくて

日陰はいつもより黒くて

腫れた瞼はサングラスで隠した


この熱でも溶けて崩れないのは

生きてるからだけど

夏を乗り越える度に腐敗が進んで

たぶん臓器は腐りきってる

心根のことは聞くな


赤信号の苛立ちは切り傷の痛みで紛らわせるけど

性か生を叫ぶ声たちには共鳴できない

煮られて焼かれて養分になる方が地球のためかと

エラー続きの思考回路の復旧を諦めて

冷えなかった頭は結論を急ぐ


◇ ◇ ◇

うっとうしさとかうだる感じとかが出てるといいな~と思いながらいま読み返していて気付いたんですが、性別がわかりませんね。これ。書いてるときにはおひとりいらっしゃったんですが。なんなら年代もはっきりしていたんですがそれも書いてないのか。明確な人物イメージがあったのにその人物の情報が出ていないのは不思議な感じがします。

◇ ◇ ◇


『首』2020.8.27


ちょうちょ

ちょうちょ

死にたくなったので

ちょうちょ


ちょうちょ

おひとつ

はためかせて


私の手の大きさの

ちょうちょ


死にたくなったので

ちょうちょ


前であわせてぐっとして

ちょうちょ

ちょうちょ

こんにちは


◇ ◇ ◇

自分で自分の首をしめるとき、手をどうするかは人それぞれだと思うんですけど。私の場合だと、両の手のひらの下の部分を合わせて、その合わせた部分を首の前方にグッと押し当て、指は首の両側に添えて……ってなるなぁ、と。その手の跡はちょうちょの形をしてるなぁ、と。

……鬱々!!前も後ろも鬱々!!!苦手な方は薄目でさっさらさーっと流してください。

◇ ◇ ◇


『首』2020.8.30


この句が我のかんばせ

思い

思われる

句を詠みたい


詠みたい、と──────────……


望んだのは私なのだ

完成させよう

完遂しよう

夏が終わる前に


共に、逝かん──────────……


◇ ◇ ◇

最高の句を詠もうとして詠んでみたら、辞世の句にするしかなくなった人の話です。腹をくくって首も。鬱々しててすいません。短歌とかの単位が首だね~というところから広げ、首っていっても首だけじゃなくて顔とか頭部を含むこともあるよね~ということも交えて考えていたんですが、どうしてこうなった……。

特になーんの意図もなかったのですが、今月は鬱々した詩が多かったですね。暑いの嫌いだからかな。ほとんど家にいたんですけれども。

◇ ◇ ◇



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