第4.5話 変わった後輩
「あなたの理想を教えてください!」
あまりにも予想外の考えに、私は動揺を、好奇心を抑えることが出来ず、了承してしまった。
そして、少し無茶なお願いをしてしまった。それだけ、彼には期待をしたかったから。
全国模試1位を取ってというお願いを。
無茶なのは十分わかっている。だって、私も相当頑張ったのだから。けれども、彼なら、彼の言葉が本当なら取ってもらわなくては困る。
彼は、少し間を開けて返事をして、その場を離れた。
私は、彼が本気なのか否かを確認するために少し彼を付けて行った。
彼が数学の参考書を取って颯爽と図書館を去っているところから考えるに本気なのだろうと、期待をさらに膨らませてから、ナツキちゃんの居る教室に戻って行った。
初めてだったのだ、私が傷つくことのない告白関係は。いつもなら、相手が一方的に私のことが好きだとか、愛してるとかを捨て台詞のように吐いて交際を要求する。
これって、おかしいと思わない?恋愛はキブアンドテイクとよく聞くし、私自身もその通りだと思っている。
なのに、今までの人は私に要求するだけで何もくれそうに無かった。
けれども、彼は言葉通りならば私に色々くれそうだ。
だけれど、恋愛に躊躇や妥協は不要。私は最初っから五十嵐くんのことが好きなのだから、彼が私の理想になれなかったときは申し訳ないけれども、バッサリ切り捨てる。
楽しみだなぁ~彼が今後どうなるのか。
そんな風に、心を躍らせている間に、ナツキちゃんの待つ教室に辿り着いた。
ナツキちゃんは教室の扉を開けた私に間髪入れずにどうたった?と聞く。
ナツキちゃんは彼のことがずっと前から好きらしい。
ただの幼馴染だったこの二人の関係の状態が、ナツキちゃんにとって一番安心する異性との関係で、今後もあの後輩くんの隣にずっといたい。だから、彼の納得のいく形で私に彼を振ってほしいと実は屋上に行くように言われた時に言われていたのだ。
「どうって、言われても……まず告白されなかったからね?」
「え?」
「その代わり、面白いことを言ってたよ。”あなたの理想に僕はなります。”だってさ」
実際に言葉にしてみると、あの後輩は変わった思考を持っているなぁと思う。
まぁ、だからこそ興味が引いたのだろうけれども。
「……チキンが、私の寿命どれだけ減らせば気が済むの?」
ナツキちゃんは、ぐったりとして、大きなため息を吐く。
私は、これだけのことで寿命が減るなら、今までに何年の寿命が犠牲になったのだろうと、気になりながらもあえて口にはしなかった。
「で、カエデはなんて答えたの?」
「ナツキちゃんが納得のいく振り方をしてって言っていたから、一応承諾して、じゃあ、初めに全国模試1位とってよってお願いしたよ? あと、私もあの子がどこまでやるのか普通に気になったし」
「で、ハルの奴はなんて?」
私のことをナツキちゃんは伝承バトとでも思っているのだろうかと、少し疑問がわいたが、即座にその場を去ったと言った。
「あいつ、そこまで本気なんだ……私がどれだけ勉強しろって言ってもペンの一つも持たなかったあいつが……」
彼がどれだけ私に対して本気なのかがわかる言葉だった。
しょんぼりしている、ナツキちゃんをフォローするために励ましの言葉をかける。
「確かに、勉強をすれば順位は高くなるよ? けれども、全国1位はそう簡単に取れないモノなんだから、彼も諦めがつくって!」
実際に全国1位なんてものは相当頑張って今まで培った知識をフルに活かして取れるか取れないかのものなのは私が高校2年の中では一番知っている。
だから、お願いしたのだ。
心が揺れやすい人間は、すぐに心が揺れていくから。こんな目標。
「さすが、1年の時の全国模試1位を維持した者。説得力の桁が違うわー。けれどもね、カエデ。一個だけ言ってもいい?」
「なに?」
「ハルはね……絶対にやると決めたら、それを貫く信念が備わっているの。だから、そのぉ、もしかしたら本当に取ってくるかも……」
「大丈夫、私が五十嵐くんを大好きなのは、ナツキちゃんが一番知ってるでしょ?あの子には、悪いけど何をやっても五十嵐くんには勝てないよ、あの子は」
「まぁ、そっか!」
両者とも、彼にひどいことを言っているなぁと思いながら、笑いながら二人で家に帰った。
この時、柳 晴也がくしゃみをしたという天丼をしていたのを二人は知る由もなかった。
次の日
今日も彼は勉強しているのだろうか、あるいは発した言葉を後悔し諦めたのかが気になって、図書室に足を運ぶことにした。
今日は学習デイだから、恐らく彼は図書室の勉強スペースで勉強しているだろう。
私の予想が当たっており、彼は勉強ペースで勉強していた。
真剣な眼差しで机に向かっているその姿は、産んだはずのない息子のように見えた。
彼は、嫌いなものに逃げずにあそこまで頑張っているのだ。たった一人の私のために。
そういえば、昨日彼に何かご褒美をあげると言っていた私が居たなと思い出す。
私は、食堂の隣にある自動販売機で何か買ってあげようと自動販売機に向かった。
……当たり前だが、彼の好物を知らない。ここは、勉強のお供糖分の王様おしるこにしよう。
「あっ……」
私は、おしるこを購入した後、自分が金欠であることを思い出す。
……正午の紅茶が買えない……仕方ない。彼に何か勘付かれて、金欠だと思われるのは何か嫌なので、一番安い水を買おう。
私はおしること水をカバンに詰めて図書室に行った。
彼は相変わらず机に向かっていた。
もしかして、こっそり座れば彼は気づかないのではと思い、物音をあまり立てずに彼の前に座った。
彼は、全く私に気付く素振りも見せなかった。この集中力はどこから来るのだろうかと思いながら、彼の勉強がひと段落するまで待った。
相当昨日勉強したのであろうということが、言葉には出来ない何かが彼から感じ取れた。
しばらくしていると、彼はおもむろにペンケースからカッターを取り出し固まった。
私は何か良からぬことを考えているなと思い彼を止めた。
(後は3話のシーンと一緒なので、中略)
テスト返却日当日
私は、彼のテスト結果を知るために放課後、屋上へと昇った。
そして、彼が私にテストの結果を渡してきたのでそれをしっかりと受け取る。
本人より先に、結果を見るのはどこかもう訳ないなと思ったが、彼自身の要望なので、いいかと思い、自己解決に至る。
私自身は1位キープが出来ていてひとまず安心しているが、数週間前の彼の頑張りを陰ながら、見てきた私はもはや彼には頂点に立っていてほしいという願望すら芽生えていた。
あの数日間でペンだこが出来るほど頑張った彼の努力は報われてほしい。
恋とかどうとか以前に、私は頑張る人には幸せと言う対価が報われるという結果が出てきてほしい。
そう思いながら、私は恐る恐る結果を見る。
だが、私の願いは届くことはなく、全国模試の全国順位には6と書かれていた。
ここで、私の頭の中で葛藤が始まる。
冷静になって考えて欲しい。
前回80000位であった、決して頭がいいとは言えない一般高校生が、一週間の努力でここまでの成長を遂げたのだ。
彼には自覚がないかもしれないが、彼にはきちんと才能の種があり、今回の一件でその才能の種が芽生えてきた。
その芽を摘み取ってもいいだろうか?
私には、根拠こそ無いが彼はこのまま私のお願いを聞き続かせれば、必ずしもとんでもない逸材になるという確信が脳裏に宿っていた。
そんな逸材の種を摘み取ってもいいだろうか?
私は、今の人間関係を、彼の要望を、ナツキちゃんの要望を振り返る。
ナツキちゃんは、今回の件を詳しく伝えれば、私の考えを伝えればなんとか納得はしてくれるだろう。
次に、私の心情を考える。
私は、彼と一緒にいることは嫌なのだろうか。言うまでもなく、嫌ではない。こんな面白い子と一緒にいるのが嫌なわけがない。
私は、五十嵐くんへの恋心が揺れることを心配しているのだろうか?いや、そんなわけがない。
ならば、私が取る行動は、答えは出た。
今の状態ならば、答えを、彼を振るという結果を急いで迫る必要性は無い。
彼に期待だけさせて、振るということになるのは心に来るけれども、それ以上のものを彼は手に入れることが出来る。
全国1位を求めていたが、学校内1位を求めていたということにして偽ろう。
「おめでとう。晴也くん」
私は、友好の証として、彼を評価するという意を込めて今後は晴也くんと呼ぶことをこの瞬間に決めた。
そして、結果を返す。
彼は自分の結果を見るやいなや、突然泣いて私を置いて逃げて行った。
私は、理解に数秒使ったが、おめでとうと言う言葉を違う意味で捉えた、いや、捉えれると気づき、彼を追いかけた。
幸いなことに、彼は私よりも足が遅く、すぐに追いつけた。
私は、突然目標を自分の中で変えたのなら、彼自身も混乱するのは当然だと思い、辻褄の合うように、彼を説得……騙した。
なんとか、彼を騙すことに成功し、彼は喜んで家に帰った。
今週末のお出かけ、楽しみだなぁ…………………………………………楽しみ?
どこかで、歯車が回る音がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます