第5話 日曜日

 時が流れるのは、早くあっという間に日曜日を迎えた。

 即ち、先輩とのお出かけ日がやってきた。僕は今回どんな無茶ぶりをさせられるのかはわからないが、今日の僕の中での目標が一つある。


 mission:先輩の連絡先を手に入れよ!


 形はどうであれ、二人で出かけるような関係になった僕と先輩。もうそろそろ連絡先の一つや二つ教えて貰えても問題は無いのではなかろうか?

 否、問題は無い(自己解決)

 さて、それではどうやって連絡先を貰おうか。

 作戦はこうだぁ!(大晦日番組のの3分ヒーロー集風)

 まず、僕がわざと紅葉ヶ丘駅の南口前に10時に居る。基本出かけるときの集合場所としては北口が主流なので先輩が、その時間帯に南口に居ることは無いだろう。

 そして、そこから全力疾走で北口に向かう。そして、北口にて先輩を探し、遅れた理由を南口に集まるものだと思っていたと説明する。

 先輩を待たせる行為は大変申し訳ないが先輩は恐らく僕を責めることは無いだろう。

 なぜなら、僕は休日に女性とのなんなら友人関係も見るからに無いからなぁ!はははははは!(血涙)

 よし!我ながら完璧な作戦だ!これで行こう!

 僕は心に甚大なダメージを自分で負いながら、この数日で買いそろえたと言うか服屋さんの店員さんに全て丸投げで整えて貰った服に着替えて、ショルダーバックにハンカチ,ポケットティッシュ,携帯,大金の入った財布,予備の眼鏡etcを詰めて、紅葉ヶ丘駅南口に向かった。


 家から歩いて約15分。無事紅葉ヶ丘駅の南口に到着した。

流石、6月。もう夏の呼んでもいいくらいの温度になっており、僕の頬には汗が流れていた。

一応、エチケットの為と用意した、制汗シートが仕事をする。

 そして、時計を確認すると、9時45分を針が記していた。そして、息を整えて10時になることを待つ。

 そう、たったそれだけのことをするだけだった。

 だが、僕の予想とは大きく反し、先輩は10時南口にやって来たのだ。

 先輩は何故か得意げに僕の前で立ち止まる。

 初めて見る先輩の私服。先輩のしなやかなで長く揺れる黒髪とは真逆の白いシンプルなワンピース。シンプルだからこそ、先輩の美しさを際立たせていて、ときめかずにはいられなかった。

 しかし、それ以上になぜ先輩がこの時間にここに居るのかが僕の理解は追いつかなかった。

「おはよう。不思議そうな顔をしているけれども、晴也くん。君が普段の自分で待ち合わせした相手が私じゃなかったとしたら、集合時間の何分前に目的地に着くかね?」

「えっと……少なくとも10分前には居ますね……」

「じゃあ、私のことはあまり知らないだろうけど、私は遅刻すると思うかね?」

 時間管理以前に様々な場所できちんとしている先輩が遅刻するとは考えられない。

「いいえ、考えられません……あっ」

「わかったようだね」

 僕の今回の作戦の失敗点は先輩の性格を行動を計画の中に入れていなかったことだ。

 先輩の性格上、「もしかしたら」を考慮して行動を起こす可能性は容易に予想できた。

その上、先輩の頭の回転は恐ろしいくらいに回る。

 そして、先輩が何か得意げな所から考えるに僕が故意でこちらに居ることまで、お見通しなのだろう。

「すみませんでした」

 こういう時は素直に潔く謝ることが一番いい。

「で、何を企んでいたのかね?」

 僕は、怒られるのを覚悟し、白状した。


「へぇ~、つまり晴也くんは、私の連絡先を知るためにこんな面倒なことしてたんだぁ」

 と言いながら、先輩は微笑しながら、片手を僕に見せる。

結果的に僕は怒られることは無かった。

 話の流れ的に、携帯を差し出せということだろうと思い、何の躊躇いもなく携帯を差し出す。

 先輩は慣れた手つきで、僕の携帯の連絡アプリを開き、恐らく先輩のであろうアカウントを追加してから僕に携帯を返す。

「晴也くん。携帯にロックかけた方がいいよ? 危ないし。あと、今度からは正直に申し出るように」

 僕の携帯は、大したセキュリティー設定をしていない。実際に僕が盗まれて困るほど携帯を触っていないため、守る必要性がそこまで無かったからである。

 しかし、先輩の連絡先を知ってしまったので、これは死守しなくてはいけないと思い、かなり長めのパスワードを設定した。そして、先輩の注意をきちんと受け止め反省し、頭を下げた。

「これでいいですかね?」

二重の意味で僕は問いかける。

「うん! OK! じゃ、気を取り直して行こっか!」

どうやら、先輩は理解したそうだ。

そして、僕は目的地を知らされていないため再び問いかけた。

「えっと……どこへ?」

 先輩は、何一つ変わらない表情で答えた。

「彼岸大通り」

「り、了解です」

 彼岸大通りは、隣町の彼岸花町にある、様々な店で賑わっている言わば豪華な商店街のような大通りである。

 その場所では、手に入らないものは無いと言われるほど扱っているものが多いお店があるため、たまに僕もお世話になるが、この質問で僕は、先輩の今回のお願いが何なのかを予測しようとしたがこれでは割り出せないと思いながら、彼岸花町行きの電車に乗った。

 深緑色のふかふかのシートに座り、電車に揺られること数十分。

 丁度話すことも無くなってきた頃合いになったので、先輩に疑問をぶつけることにした。

「ところで先輩、今回のお願いは何ですか?」

 先輩は、この質問を予期していたのかと言うくらいに間髪入れず答え始めた。

「その質問を、待ってました! 説明いたしましょう! 今回はレディーファーストがきちんと出来るのかを審査するために今日一日、私とデートしてもらいます!」

 僕は、あまりにもぶっ飛んだお願いに口をぽっかりと開けた。そして、心の奥底でテンションの高くなった先輩も可愛いと思った。

 そして、先輩が、少し声を張っていたため、この車両の全乗客の注目の的になってしまった。

 先輩は、その直後に先輩は座席を立ち上がり深く頭を下げ「お騒がせしました」と言った。

 先輩にのみ、恥をかかせるわけにはいかないと思い、僕も即座に座席を立ち深々と頭を下げた。

 すると、なぜか和やかな空気になり、みんな許してくれた。

 というか、元々周りの目は怒りのものではなかった。

 それも全て、先輩が美しく優しさなどが滲み出ているような素晴らしい存在だからだろう。

 実際に、先ほどまでも何度か視線が集まっているなと言うときがあった。

 今、僕の隣にはそれほどの存在の人が居ると、改めて自覚させられた。

「先ほどのお願い。僭越せんえつながら務めさせていただきます」

 こんな素晴らしい先輩とデートが出来る喜びを大いに噛みしめながら、意識したことのないレディーファーストと言うものしようと決心した。

「前回の件で期待してるよ、晴也くん。あと、さっきは一緒に謝ってくれてありがと。その調子で頑張ってね」

先輩は小声で僕に感謝してくれた。

 これで、一応レディーファーストができているらしい。

 僕は、夏姉以外の家族を除く異性と出かけたことがないのでレディーファーストがどのようなものなのかわからない。

 しかも、失礼ではあるが夏姉と一緒の時に関しては、レディーファースト以前に、夏姉を女子として見たことすら一度もない。

 世話のかかる姉くらいにしか見えないため、何なら、一般常識程度に気にかけることすらしたことがない。

 そんな僕が相手を気にかけながら一日を過ごし、先輩の一日を無駄にすることなく、楽しかったと言ってもらえるような休日を送ることが出来るのだろうかと、心配の気持ちを胸に電車に揺られながら、何気ない会話を繰り返し目的地へと向かった。


 そして、僕たちは彼岸花町に辿り着いた。

 

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