第27話 一筋縄ではいかない



「そうですわね。素直に納得してはいただけないでしょうし難しいと思いますけれど、それが一番いいですわね……」


「……やっぱり、彼の追及に答えられるように練習しときましょうか?」


「……そうしましょう。彼相手にぶっつけ本番は危険ですわ」


「ですよね。では、いつシリル様に突っ込んで聞かれてもいいように準備しておいて、近々、頃合いを見て話すと言うことで……」


「賛成ですわ」


 と言うわけで、少し未来を視ただけだよ、嘘ついてないよ本当だよ……ということが真実に見えるような練習もしておくことにした。


 シリルへの説得は正直なところ手詰まり感が半端なかったし、騙し通すには覚悟が足りずに良心がチクチク痛かった。こうして一部とは言え、真実を打ち明けざる状況になってしまったことに、どこかホッとしたヴィヴィアンだった。




「その件はひとまずこれくらいにして……今日は精霊契約のことを考えましょうか」


「ええ、そうしましょう」


 当初予定通り、精霊契約を試してみるため森へと向かうことに……。


 今日は教師都合で、午前と午後の講義の間にぽっかりと隙間時間ができていたのだ。冒険者ギルドの依頼を受けに行くには中途半端だったので、有効に利用したいと考えてこうなった。


 校舎を出て、精霊がたくさん住んでいると言われている魔法学院裏の森に向かう。

 周りに誰もいない所まで歩いて来たことを確認してから、懸念していることを聞いてみる。


「パーソナルレベルを上げ出してまだ一か月程度ですが……精霊は答えてくれるでしょうか?」


「う~ん。こればかりはやってみないと分からないかと。何しろ、精霊契約って人間主体じゃなくて精霊主体でしょう?」


「そうですわよねぇ」


 いくら人間側の力量が高くても、精霊側に選択肢がある限り、気に入らなければ彼らが応えることはないのだから運任せになるのは仕方がない。


「僕達のレベルはようやく10になったばかりですしね。一度で成功するのは難しいかもしれません」


「ええ、分かっていますわ。特にわたくしの場合、パーソナルレベルはともかく、四人の中で幸運値が最低でしたもの……」


「そうでしたね。さすが悪役令嬢というか何と言うか……」



 ――幸運値は年齢と同じ数値になるのが一般的だ。



 しかしヴィヴィアンの場合、信じられない数値が出たのである。なんと、一歳児に相当する「レベル1」……運の悪さが振り切れている。

 同じく攻略対象の婚約者で、ヒロインのライバル令嬢であるリリアンヌでさえも、年齢より一つ下のレベル12という結果が出ているというのに……。


 普通、パーソナルレベルをあげていけば、体力や魔力、攻撃力や防御力、素早さ等、身体能力値と一緒に幸運値もアップするものなのに、ヴィヴィアンのだけピクリとも動かなかったのである……手強い。


 逆に、フレデリックとシリルは年齢以上の数値が出ていて、さすが攻略対象、ハイスペック仕様なんだと思ったものだ。



 ――容赦が無さすぎる運の格差に、言葉もないというか……彼女の悲惨さがいっそう際立つ出来事だった。



「そんな予感はありましたし覚悟はしておりましたけれど……それでもステータスで運の悪さを証明された時はショックでしたわ……」


「確かにあんなバッドステータスって、シナリオの悪意を感じますよ。でも、精霊契約はそれを覆す可能性が高い方法でなわけですから。頑張ってみましょう?」


「ええ、フレデリック様。ありがとうございます。未来を変えるためにも必要な契約ですし、何とか成功させたいですわ」


「……一緒にいる僕の幸運値が、貴女にもいい方に作用してくれるといいんですけれどねぇ。ヴィヴィアン嬢の場合、個人の努力だけで上げるのは難しいかと思いますし……短期間でとなると尚更でしょう」


「そうですわね。幸運値を上げる魔道具でもあればよかったのですが、そんな都合のいいものはありませんでしたし」


「ラッキーアイテムとかって、ゲームならありそうなんですけどね?」


「ええ、まさか無いとは……驚きました。中々、簡単には解決させてくれないようです……」


 お金で解決出来るなら公爵令嬢であるヴィヴィアンなら簡単だったのだが、残念ながらそう上手くはいかないようだ。


 ヒロインに都合よく有利に働くこの世界は、悪役令嬢であるヴィヴィアンに厳しいのである。


 とりあえず、今判明している中では精霊契約が幸運値を上げられる近道のようだが、運のないヴィヴィアンには不利であることに変わらない。



「契約にどれだけ時間が掛かるか不明ですが、一番いいのは守護精霊と契約できることです。でも、一般的な四属性精霊との契約でも少しは効果が出るはずです」


「挑戦してみないと分かりませんものね。でも、成長した成果が出るかもしれないと思うと、期待してしまいますの」


「前世では体験できないことですしね。僕も結構ワクワクしてますよ、場所が場所ですし」


「この森には魔法学院の生徒しか入れませんものね」


「はい。エルフ族である学院長先生がいらっしゃるおかげで、精霊達も人に好意的なものが集まっていますし。恩恵を受けれる可能性が高い稀有な場所ですから」


「ええ、本当に、ありがたいことです」




 精霊は、自然の力が漲っている力ある場所を好む。


 例えば活動中の火山や、太古の状態を維持している森などだ。気まぐれな気質を持つため、人を気に入って力を貸すものや、森の中でのんびり過ごしていくものと様々だが、多くは人跡未踏の地にいる。

 そのため、中々こんなに身近な場所に絶好のスポットはなく、入れるだけヴィヴィアン達は恵まれているのだ。





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