第28話 精霊の泉



「精霊は、元々精霊が多くいる場所や、精霊に好かれる人がいるところに集まりやすいといわれています。その習性を利用しましょう」


「まずはフレデリック様だけでも成功するといいのですが。そうやって挑戦し契約した精霊達を連れた上で、シリル様達の契約を手伝うという流れでいいのかしら?」


「はい、効率よく契約するにはその方法がいいんじゃないかと考えています」


「確率が上がりそうですわね。精霊学の授業では、自分の得意な属性の精霊とは契約しやすいと習いました」


「ええ、森の中ですと土と水、風属性が有利だと思います」


 基本的には、火、水、風、土の4大属性のものが大半を締め、極一部のレアな精霊のみ、光や闇、雷の特殊属性を持つらしい。


 ヴィヴィアンであれば火魔法が得意なので火属性の精霊と、フレデリックならば風属性、シリルとリリアンヌは水属性といった感じだ。


 この場所には火属性の精霊は少ないので、又々ヴィヴィアンには不利だが、少ないだけでいない訳ではないので精霊の気まぐれに期待をかけるしかない。




 ――そうやって話している内に、二人は本日の目的地に辿り着いた。


 人の手が入った森の中を歩き続け、暖かな陽の光が入る少し開けた場所に出たのだ。


「ここが、精霊の泉ですか……」


「まあ、想像していたよりも小さくて可愛らしいですわ。綺麗ですこと」


「ええ、本当に。静かで美しい場所ですね」


 柔らかな草を踏みしめながら小さな泉に近づき、澄んだ水の中を覗き込んでみると、水底からポコポコと水が湧き出しているのが見えた。水深はあまり深くなさそうだ。


「さて、ここで待っていれば精霊に出会えるはずですけれど……今日は僕達だけみたいですね」


「ええ、人気のスポットですから他の方もいらっしゃるかと思いましたが、ラッキーでしたわ」


「ふふっ、そうですね。後は精霊達が受け入れてくれるかですが……」


「緊張してきましたわ」


「とりあえず座りましょうか?」


「ええ、そうですわね」


 泉から少し離れてゆっくりと腰を降ろし、時折話ながら、じっとその時を待つ。




 ――来た。



 周辺の森の中から精霊たちがふよふよと集まってくるのが見えた!


 見た目は丸くて、発光する毛玉のようだ。掌に乗るくらいの大きさで、僅かに体毛が色づいているのはそれぞれの属性の色を纏っているからだろう。

 青、緑、黄色の毛玉達が多数を占めており、白や黒の毛玉はいないようだ。


 そしてやはりというか、森の中だとヴィヴィアンの得意な属性である火の精霊は少ないらしく、薄いピンク色をしたものが僅かにいるくらい。

 赤は火属性、青は水属性、緑は風属性、黄色は土属性の精霊で、白は光属性、黒は闇属性を帯びた精霊で、一目見ただけで判別が可能なのは分かりやすくていい。


 ちらりとフレデリックを見ると彼にも見えているようで、精霊を驚かせないように微かに頷いてくれた。

 普通、精霊の姿は人には見えないのだが、こうして可視化できるということは、精霊達が二人に興味を持ってくれたということ。

 姿を見せてもいいと、気持ちを許してくれた証拠なのだ。まずは第一関門を突破出来たらしい。




 尚も動かず様子を見ていると、毛玉たちから面白そうな気持ちが伝わってきた。二人の周りを自由にピョンピョン飛び跳ねている。

 好奇心がいっぱいのようで、目の前に浮かんでみたり、風を送って髪を揺らしてみたりと愉快そうだ。


 早速、主に緑色をした精霊達に囲まれたフレデリックが彼らに優しく挨拶をすると、その中でも特に濃い鮮やかな緑の毛玉が一体、フヨフヨと漂って来て彼に引っ付いた。

 スリスリとすり寄る可愛らしい仕草に微笑みを深くしながら、緑の毛玉を指で優しく撫でていると……。



 ――次の瞬間、毛玉がピカッと光った!



 柔らかな光がフレデリックを包み込み、すぐに拡散して消える。


 どうやら、これで無事に契約が成立したということらしい。さすが攻略対象である。短期間で呆気なく精霊達の心を掴み、気に入られたようだ。


 その後もたくさんいる中から、青と黄色の精霊とも一体ずつ契約を成功させ、早々に目標を達成してみせた。


 これで彼は四属性精霊の内、火属性を除く全ての属性の精霊と契約したことになる。





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