第9話 協力体制



 ◇ ◇ ◇




 シリル様へのお返事を書き終わった辺りで、フレデリック様のところにお使いに行っていたセレスが戻って来た。


「ただいま戻りました、お嬢様」


「ご苦労様……どうでした?」


 多分大丈夫だろうと思ったが、一応聞いてみたところ……。


「はい。サクス伯爵のご子息様も、是非にとおっしゃってくださいました。無事、協力体制のご許可をいただけましたので、影との繋ぎを取り、ご挨拶も済ませて参りました」


「そう、よかったわ。これでわたくし達だけで対応するよりも、万全体制が取れますわね」


 いち早く、情報のやりとりが可能になったことは心強い。


「ええ、お嬢様。有難い事です。影とは今後、私が主に連絡役を努めさせていただきます。この件に関してアリスは補助にまわりますわ。このこともご了承を得ております」


 ヴィヴィアンの専属メイドが双子の姉妹だということは、先方も分かっている。改めての顔見せは必要ないとのことだった。

 こういう時、一卵性の双子というのは便利なものだ。片方の顔だけを確認すればいいのだから。


「分かりましたわ、ありがとう」




「それとこちらを……お嬢様へとお預かりして参りました」


 セレスが差し出したのは、大小二つの封書が二通。


「あら、何かしら?」


「まずはお手紙の方からどうぞ。資料をご覧になる前に目を通して欲しいとのことでしたわ」




 という訳で、セレスから手渡された手紙を読んでみることに……。


 それによると、フレデリック様はどうやら前世の記憶を思い出した直後から、忘れないようにと少しずつ乙女ゲームの内容を書き留めておられたようだ。

 今回はその資料を、転写の魔道具を使い専用の魔法紙に複写してくださったようで、それをセレスが預かってきてくれたらしい。


「成る程、さすがはフレデリック様。マメですわねぇ」


 早速、その封書を開けて中身を見てみると、乙女ゲームの内容について大まかに記した簡単な書類が数枚、出てきた。

 彼も魔法学院への転入準備で忙しく、時間が取れなかったようで資料は少なめだ。

 先に把握しておいた方がいい主要な情報に重点をおき、まずは攻略対象の名前や、出会いの場面などを箇条書きにして記してある。



 ――主要な攻略対象者は全部で五名。



 まずは、この国の第二王子である、クリストファー・ランドル殿下。


 王弟で近衛長官でもあるバイロン公爵の長男、ハロルド・バイロン公爵令息。


 わたくしの婚約者である宰相の次男、シリル・レジーナ侯爵令息と、友人のリリアンヌ・マリー侯爵令嬢の婚約者で魔法大臣の三男、フレデリック・サクス伯爵令息、ご自身。


 そして最後に、爵位は低いながらもその才覚で財務副長官にまで上り詰めたリーン子爵の長男、ロイド・リーン子爵令息。



 ――こうして改めて見てみると、中々豪華なメンバーですわねぇ。




 他にもお助けキャラや友人キャラなど攻略の手助けをしてくれるイケメン達が何人かいたように記憶しているが、その辺りはフレデリック様も記憶が曖昧らしく、書かれていない。

 だが、悪役令嬢の破滅ルートに関わりがないはずなので、とりあえずは放置でいいだろう。


 シリル様を含めた主要な攻略対象者五名との出会いイベントは、王立学園に入園してからの一ヶ月間で既に済ませているらしいとのこと。

 攻略対象者の周辺に彼女がよく出没しては、話しかけているようだ。彼らも邪険に扱っているようには見えないことから、順調にイベントを消化していっているものだと思われる。




 攻略対象者の情報には特に目新しい要素はないが、ヒロインさんの名前と簡単な経歴が載っていたのは嬉しい。



 ――ルチル・ヒューシャ男爵令嬢……と言うらしい。



 乙女ゲームのヒロインは、好きな名前を入れて遊ぶものだったので今まで分からなかった。


 そして、そのヒューシャ男爵令嬢のサクセスストーリーについて、攻略対象達との出会いの場面以前の事が書かれてある。



 ――彼女は、何不自由なく育てられた大きな商家の娘。その生まれからくる天真爛漫さが売りだ。



 容姿についての記載はないが、ゲームと同じなら、迫力ある美女に成長する予定の悪役令嬢とは正反対の、庇護欲をそそる可愛いらしい小柄な美少女のはず。


 この国では、貴族階級の者に高い魔力を持つ者が生まれやすく、平民は基本的に極微量の魔力しかもたないという設定だった。

 そんな中でルチルは、突然変異的にで高い魔力を持って生まれてくる。その魔力量を見込まれて、十歳の時に男爵家の養子に入る……というのが表向きの理由。

 実際にはこの男爵家は、ルチルの実家の商家に莫大な借金があり、それを帳消しにするという見返りに血の繋がりのない少女を養子に迎え入れることになったのだった……。




 調査内容としてはここまでだが、この短期間で調べ上げたのだから伯爵家の影は優秀だというのは本当のようだ。


 代々、魔法大臣を務める家系だし、独自に捜索魔法の技術を編み出していても不思議じゃないけれど、こんなに心強い味方ができたのは嬉しかった。


 一通りざっと確認してから、彼女たちに資料を渡す。


「あなた達も目を通しておいてちょうだい」


「かしこまりました。拝見いたします」





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