第52話 幕間 陽菜目線③

 ……あたしってほんとに馬鹿なんじゃないかと思う。


 改めてそう思ったのは、テストが終わって学校から帰る途中、意識が途絶え、気が付いたら病院のベッドの上で点滴を打たれていて、お医者さんにかなり真剣に注意されてからだった。


 原因は単純で、過労との事。


 テストという1つの山場を超えたことで、気を張り過ぎていた糸がぷつん、と切れてしまったらしい。


 今日は流石に入院しないといけないみたいだけど、それでも軽い熱が出ているだけで、少し休めば良くなるみたいなんだけど。


 そこだけは、頑丈な自分の身体に素直に感謝したい。


 でも、家族にも、友達にも……好きな人にも、たくさん迷惑をかけちゃったから、今は罰されたいから、体調を崩して苦しみたい気分。


 なんて言ったら、もっと怒られちゃうよね。


 というか心配をかけてる今この状況に心が痛むから、あたしがやらないといけないのは、早く元気になって心配をかけた人たちに謝る事だと思う。


 お父さんやお母さんはあとで、仕事を早めに切り上げて来てくれるみたいで、蘭と凛は学校が終わってから来てくれる。


 店長には、あとでちゃんとアルバイトを休むと連絡を入れないといけない。


「……ごめんね、有彩。心配かけちゃって」


 だから、まずは倒れる時に一緒にいて、病院までこうして付き添ってくれている同居人に頭を下げた。


「……本当ですよ」


 有彩がすんっと鼻を鳴らす。


 チャームポイントな眠たそうな目とその周りは少しだけ赤くなっていて、泣かせてしまった事に罪悪感がふつふつと湧き上がってくる。


「いくらなんでも無茶し過ぎです。軽症で良かったものの、倒れた時に私が傍にいなかったら、どうなってたと思いますか」


「……ごめんなさい」


 憤りと心配が混ざったようなトーンに、あたしは再び頭を下げた。


「……私の方こそ、ごめんなさい。ちゃんと止められなくて」


「有彩が謝ることじゃないよ。絶対に。止められたのに、意地になって、勝手に突っ走ったのはあたしだもん」


 りっくんだけじゃなくて、料理を教えてくれていた有彩からもちゃんと休めーって言われてたのに。


 意地張って、好きな人とケンカまでして、結局最後は倒れちゃってさ。馬鹿だよね、ほんと。


 小鳥遊君にも、りっくんに八つ当たりをしてケンカになった事を怒られた。


 そりゃそうだよね。全部あたしが悪いんだから。


 あたし、自分で思ってたよりも、全然余裕無くて、焦ってたんだな。


 今更気付いたって、りっくんとケンカしちゃった事が、無くなったりはしないけど。


 元気になったら、ちゃんと謝らないと。


 すごく顔を合わせづらいし、りっくんは許してくれないかもしれないけど。


 ……こんなにりっくんと話してないのって初めてだよね。


 ……りっくんに会いたいな。


 そんな資格なんて無いはずなのに、自分に都合の良い事を考えしまうあたり、ほんと馬鹿。


 もしかしたら、ケンカしている最中でも、るなちゃんとの用事の最中でも、全部投げ出して駆けつけてくれるかも、なんて。


 そんな浅ましい想像を、期待をしてしまう自分が嫌で仕方がない。


 だから、元気になったら、あたしの方からちゃんと謝りに行こう。


 りっくんの方から来てくれるのを待ってるだけなんて、それを選ぶのだけは絶対に駄目だから。


 そう思っていたのに、


「——陽菜ッ!」


 どうして来ちゃうのかな、あなたは。

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