第38話 幕間 陽菜目線

「あの、陽菜ちゃん……自分たちではああ言いましたけど、本当にこれでよかったんでしょうか?」


 あたしの隣を歩いていた有彩がそう呟いた。

 よかったのか、か。


「まあ、よくはないよね」


「ですよね」


 2人してがっくりと肩を落とした。

 

「でもやっぱりあたしにはるなちゃんの気持ちがよく分かるからさ。有彩とりっくんが同棲を始めるって時も、簡単に一緒に同棲するって言ったように見えて、結構必死だったんだよ?」


「陽菜ちゃん……」


「だからさ、好きな人と一緒になりたくて、その人以外と、なんて考えたくないってことがよく分かっちゃったんだよね」


 チラリ、と後ろの方に目をやった。

 そこにはりっくんとるなちゃんの姿は見えない。

 きっと2人でゆっくり歩いているんだろう。

 あたしたちは同棲のことがみんなにバレてしまわないように、登校する時は大体バラバラ。

 だから、あたしと有彩は2人を置いて、一足先に学校へと向かっている。


「なんかごめんね。巻き込んじゃって」


「いえ。私もるなちゃんの気持ちはよく分かりますから。好きな人と離れたくないなんて理由で、その好きな人の家に都合よく転がり込んだんですから」


「でも、やっぱり不安だよね」


「不安ですね」


 2人揃ってため息をついた。

 あんな風に啖呵を切った手前、今更しばらく同棲をやめるのをやめるなんて言えるはずがないんだけど、それとこれとは気持ちがちぐはぐ。

 

「あたしさ、正直ちょっとりっくんとるなちゃんには怒ってるとこあるんだよね」


「怒ってる、ですか?」


「だってさ! りっくんはあたしたちの気持ちに全然気が付いてくれないし、るなちゃんなんてこっちの気も知らずに簡単に告白しちゃうしさ! それに話を引き受けたとはいえ、同棲をしばらくやめてください、なんて普通怒るでしょ!?」


「陽菜ちゃん、気持ちはよく分かるんですけど……それは……」


「うん。分かってる。こんなの結局あたしのワガママでしかないんだよね。気持ちに気が付いてくれないなんていうのはさ」


 だから、この感情をりっくんとるなちゃんに向けるのは違うから、それが分かっているからこそ、あたしはなにも言えない。


「すごいよね、るなちゃん。あたしなんてずっと昔からりっくんのことが大好きで、未だに振られたらと思うと怖くて動けないのに、出会ったその日に告白だよ? ほんとに羨ましいな」


 有彩は黙ってあたしの顔を眺めている。


「やっと動けたこの同棲だってさ、結局有彩が行動を起こして、あたしが慌てて後手に回っただけだからね」


 いつだってあたしは誰かの後手に回りっぱなしで、自分からなにかをアクションを起こしたことはない。

 それに――……。


「やっぱりあたしには有彩とるなちゃんとは違ってさ、なにもないんだよね。ただの幼馴染みでしかないんだよ」


「そんなこと……」


「ううん。あるんだよ。有彩は可愛いし小説も書けて、家事も出来る。るなちゃんだって可愛いしあの行動力がある」


 有彩を見て、なにか自分も頑張れるものが欲しいって思った。

 るなちゃんに改めて言われて、気が付いた。

 あたしはりっくんの幼馴染みでしかないんだってことに。


「陽菜ちゃんだって可愛いですし、私に持ってないものを持ってますよ」


「ありがとう、有彩。でも、これってさ。誰かになにを言われても、結局のところ、自分で納得したいんだと思う」


 だから、今目の前にある勉強だったりとかバイトだったりだとかに打ち込んでみようと思って、取り組むことにしたんだから。

 

「ひとまずは料理を頑張ってみようかな。絶対にりっくんに美味しいって言わせてみせるんだ!」


「なにか私に協力出来そうなことがあったらいつでも言ってくださいね」


 有彩が微笑みながら言ってくれる。

 ……あ、そうだ!


「有彩!」


 あたしは有彩の両手をぎゅっと握る。


「わっ!? どうしたんですか!?」


「早速だけど手伝ってほしいことがあるの!」


「は、はい」


「お弁当を作ってあげたい!」


「……お弁当ですか?」


「うん! テストが終わったらさ、球技大会があるでしょ? その時のりっくんのお弁当を作ってあげたいの! サプライズで!」


 ちょうど同棲は少しの間解消になるし、あたしは自分の家に帰ればいいからね。

 りっくんにバレずに料理の練習が出来る。


「分かりました。理玖くんを驚かせちゃいましょう!」


「うん!」


 とびきり美味しいものを作って、絶対にりっくんをビックリさせちゃうんだから!

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