第14話 GW旅行②
「おーやっぱ清水の舞台から飛び降りるって言葉があるだけのことはあるな」
「あー、聞いたことある。でもそれってどういう意味なの?」
「それぐらいの覚悟で物事を実行するっていう意味ですよ、陽菜ちゃん」
有彩はやっぱ物知りだ。
小説を書いてると言葉の意味が合っているかだとか調べたりするらしいし、自然と知識が身に付いたんだろうな。
ほへーと感嘆の感情を口から漏らしている陽菜から視線を移し、眼下に広がる景色を視界に入れる。
「僕ちょっとお参りしてくるね」
「ん? じゃあ俺も行く、和仁はどうする?」
「俺は天音さんと柏木と一緒に回るから」
とりあえず俺と遥、陽菜と有彩、和仁と柏木、天音さんの3組に分かれて境内を散策することに。
「せっかくだから何かお守りでも買おうと思うんだけど……理玖は?」
「そうだな……俺も健康と金運のやつぐらい買っとくわ。遥はなんのお守り買うんだよ」
遥は少し考えるように視線を泳がせて、悪戯に笑った。
「……内緒!」
「お守り買うぐらいで隠し事ですか、そうですか」
思わずげんなりした表情にでもなってしまっていたのだろう、俺の表情を見て、遥は喉の奥でくつくつと笑い声を転がして、忍び笑いをした。
「ごめんごめん! 友達の分の縁結びでも買っておこうかなってさ」
「ふーん。……なら俺も縁結び買っとくわ」
「え? 理玖って好きな人いるの?」
「いや、俺も友達の分」
脳裏に浮かんだのは好きな人がいて、離れたくないから親と一緒に海外には行かないと幸せを噛み締めるように笑っていた1人の少女の姿。
あそこまで思われてそいつは幸せ者だよな。羨ましいからタンスの角に足の小指をしこたま打ち付けてしまえ。
素性の分からない男に痛みを与えるように神様に祈りつつ、俺は遥と一緒にお守りを購入した。
「あ、おーい! りっくーん、小鳥遊くーん!」
購入したお守りを鞄の中に放り込んでいると遠くから陽菜の声が。
声の方に視線を向けると、片手を大きく振って存在をアピールしてくる陽菜と隣に付き添う有彩の姿。
……周りの人の視線がめちゃくちゃ恥ずかしい。
「2人は何してたんだ?」
「とりあえず景色を見て回ってました。理玖くんたちは何をしてたんですか?」
「僕たちはお守りを買いに行ってたんだ」
「あ、いいね! 有彩、あたしたちも買ってこうよ!」
「そうですね、せっかくですから。……2人は何のお守りを買ったんですか?」
俺は鞄に放り込んだばかりのお守りを取り出し、有彩たちに見せる。
「金運と健康と……縁結び!?」
「理玖くんに好きな人が!?」
「なんだよ、俺が縁結びのを買ってるのがそんなに意外か?」
驚いて目を丸くした陽菜と有彩が心なしか距離を詰めてくる。
「そうじゃなくて!! 誰が好きなんですか!?」
「そうだよ!! あたしそんなの初耳だよ!?」
「いや近い近い!! 落ち着け!! これ友達の分だから!! 遥だって友達の為に縁結び買ってるんだよ!! 俺のもそう!!」
なんでここまで詰め寄られないといけないんだよ!? 俺に好きな奴がいたらなんか不都合でもあんのか!!
「な、なぁんだ! そっか!!」
「俺に好きな奴がいたとしてお前らに何か不都合があるのかよ……そもそも縁結びって恋愛絡みのことだけじゃないからな?」
「え、そうなの?」
なんで遥まできょとんとするんだよ。でもその顔可愛いから写真撮りたい。
……なに考えてんだろ、俺。疲れてんな。
「恋愛絡みだけじゃなくて人間関係のこと全般のことを縁って言うだろ? まあそりゃ一般的に言えば縁結びって恋愛事だけどさ」
まあ、ここのお守りが人間関係全般に向けた縁結びかは知らないけど。
そもそもこれは俺の為のものじゃないし。
「そう言われればそうですね。……取り乱しました、ごめんなさい」
「いいよ、お前らもお守り買うんだろ? いいから行ってこい」
「うん! 行こっ、有彩」
俺と遥は別の方向に歩いていく陽菜たちを見送り、散策を再開した。
……あれは和仁か? 目を閉じて石から石へと歩いてるみたいだけど、なんだあれ? というかあいつすげえ真剣にやってないか?
「柏木さん、和仁は何してるの?」
「えっと、この石からあっちの石まで目を瞑って辿り着くことが出来たら恋の願いが叶うんだって」
「あぁ、それで和仁は……あんなに一歩一歩踏みしめるように進んでるわけか」
「ちなみにあれ4回目だよ? なんか途中までは真っ直ぐ行くんだけど、石の手前になったらまるで何かの意志が働いてるように逸れてくんだよね」
天音さんも苦笑しながら今もなお彼女が出来る未来と目の前が見えていない和仁を見てる。
つまり、和仁に彼女が出来ないのは神の意志ということになるな。因果応報という言葉がこれほどに似合う奴も珍しいと思う。
……あ、逸れていった。
「桐島君ー、もう通り過ぎてるよー」
「だぁっ!! なんでだ畜生!!」
欲を出し過ぎると碌なことにならないらしい。
あとで調べて分かったことだが、あの石はやればやるほどご利益が薄れるらしい。
……ドンマイ、和仁。
♦♦♦
「美味しかったねぇ……僕もうお腹いっぱいだよ」
「あぁ、どの料理も丁寧に作られてる上に素材の味を引き出してたな」
あれから色々と天音さんの運転で京都市内をぐるぐると観光して。俺たちは夕暮れを迎え、旅館へと戻ってきた。
そこで天音さんの親父さんが作ったという料理に舌鼓を打ったんだけど、これがまた絶品だった。
俺たちが美味い美味いとと口々に言っている中、見た目が職人気質っぽい親父さんは何も言わずに口角を少しだけ上げて、調理場に戻っていってたな。
……後ろ姿がめっちゃ渋かった。
とりあえず、部屋に戻ってきたけど……これから何して時間潰そうかな……ん? 和仁が凄い勢いで鞄から荷物を出してる……? なんだこいつ。
「和仁、お前どこか行「覗き!!」そんな食い気味に答えんでも……」
「ええ!? ダメだよ和仁!! 犯罪だよ!! 捕まっちゃうよ!!」
「女体を拝んで捕まるなら本望だ!! それに女子風呂があるのに覗きにすらいかないなんて失礼に値するね!!」
「失礼なのはお前の中身だボケナス」
どうやらこいつは自らも温泉に入り、男湯から覗くつもりらしい。
遥がなんとかしてくれっていう目でこっちを見てきてるけど……本望って言ってるしもう行かせてやればよくね?
……仕方ねえな。
「おい、和仁。ここの旅館には混浴なるものが……遥? 和仁はどこに行った?」
「あはは……理玖が混浴って言った瞬間嬉々として部屋を駆けだしていったよ」
なんて行動力だ!? あいつ脳みそと下半身が直結し過ぎだろ!!
「まあ、混浴なら合法だし……あいつと次に会う時に留置所でガラス越しの対面! なんてことにはならないだろ」
「ど、どうだろうね。そうだといいけど」
「あいつがもし女性関連の事件で何かやらかして捕まったとして、きっと学校にはテレビか何かのインタビューが来るだろ? その時、俺は必ず言おうと思ってることがあるんだ」
「えっと、なんて言うつもりなの?」
「いつかはやると思ってました、だろ」
苦笑しながらも、何も反論してこないのは、きっと遥もそうなる未来も否定出来ないと思っているからだろうな。
しばらくして、遥が鞄から財布を取り出して部屋から出ようとし始めた。
「どこに行くんだ?」
「ちょっと喉が渇いちゃったから何か買って来るよ。理玖は何がいい?」
「じゃあなんか炭酸。サンキュー、あとで金は渡すから」
うん、と頷いて遥は部屋を出て行った。
さて……俺も何かして時間を潰すかな。ゲームの続きでもやるか。
「ゲームゲームっと……ん? なんだこれ?」
ゲーム機とソフトを取り出していると、同時に水色の布が鞄から零れ落ちた。
ハンカチか? いや、こんな女子が使うようなハンカチは持ってねえしな。
「――てかこれハンカチじゃなくてパンツじゃねえか!!!!! なんで俺の鞄に!?」
気になって折りたたまれた状態から広げたら想定してた四角い布じゃなくて予想外の三角の布にメタモルフォーゼしやがった!?
「いやいや、落ち着け……! どうせ陽菜か有彩のが紛れ込んだってだけだ!」
なんでパンツが入っているのかはこれで解決……でも、まだそれより重要なことがある。
それは――
「――これが一体どっちの物なのかってことだ……!」
流石に直接どっちの物か聞くのは憚られるよな……!
そうか! 写真を撮って2人にSNSで送って聞けばいい!
よし、それじゃあ早速!
「理玖……? 一体どうしたの? 外まで声が漏れてたよ? ……何してるの?」
「……逆に聞くが、俺は今何をしてるように見える?」
遥は困惑しながら、机に置かれた水色のパンツとスマホを持って写真を撮る為に構えている俺との間に視線を数回ほど行き来させた後、意を決したように口を開いた。
「……女子の下着を品定めしてるように見えるよ」
「そうか、正直に言ってくれてどうもありがとう」
どうにかフォローしようと喋るまでに数秒時間をかけてくれた遥の優しさが今はとても心に染みた。
「先に言っておくけど、俺のじゃないからな?」
「それは分かってるよ!! もし理玖のだったら僕はこの先理玖に対してどういう顔すればいいのか分からないから!! 僕が言いたいのはどうしてそんなものがあるのかってことだよ!!!」
「俺が聞きたいわ!! あいつらのどっちかのだろうけど、どっちの持ち物か分からないから写真送って聞こうとしてたんだよ!!」
……よく考えれば、同級生の女子のパンツの写真を撮って送るってなんかこう色々とまずくね? 絵面とか。
「分かったから……その、それしまってくれない?」
まじまじと見てしまって恥ずかしくなったのか、遥は唐突に顔を赤らめてそっぽを向いてしまった。
まあ、耐性がないとこういうのは見れないよなぁ……。あれ? パンツを見ることに耐性が出来てきてる俺がおかしいんじゃ?
でも出していて和仁が戻ってきたら面倒くさいから、ポケットにでも入れておいてあとで陽菜たちの部屋に行ってあいつらの荷物の近くにでも落としておけばいいか。
と、ポケットにパンツをしまった瞬間、バタン!! と大きな音がして部屋の扉が開いた。
遥と一緒に肩を跳ね上げさせ、顔を向けると、そこには浴衣も碌に着られておらず、着崩れしまくった和仁の姿が。
「おい、どうしたんだよ。そんな恰好で。混浴はどうだったんだ?」
「……しか、いなかった」
「え? なんて?」
「――ババア゛じが!! い゛な゛がっ゛だ!!!!!!!!!」
「え!? 高校2年の男がガチ泣き!?」
部屋に転がり込んでくるなり、机に突っ伏した和仁は肩を震わせてむせび泣き始めてしまった。
正直、ドン引きしてしまった。
「こんなことで泣くなよお前」
「分かるか!? 綺麗な景色……桃源郷を観に行ったら枯れ木ばかりだった俺の気持ちがお前に分かるのか!?」
それは分かりたくもない。あとお年寄りを枯れ木って言うのはやめろ、失礼だ。
というか若い女性がわざわざ好き好んで混浴に入りに来るわけないだろうに。
「ええっと、どうしようか?」
「どうするも何も……おい、今から女子の部屋に「行くぞぉ!!!」だからそんな食い気味に答えんでも」
ていうかもういねえし。
遥と顔を見合わせて、俺たちは既に影も形もない和仁の後を追って、女子の部屋へと向かうことになった。
……まぁ、ちょうど用事もあったしな。
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