第13話 GW旅行①
僅かに揺れる新幹線の車内に合わせて、景色が飛ぶように流れ去っていく。
天気は快晴だし正に旅行日和と言っても過言じゃないだろうな。
「行き先は京都だっけ?」
「うん! 私も叔父さんと叔母さんに会うの久しぶりだなぁー!」
窓枠に肘を乗せながら、2人の会話を聞く。
京都か……中学の修学旅行でしか行ったことないな。
「有彩は京都に行ったことある?」
「家族旅行で何度かはありますよ。陽菜ちゃんは?」
「あたしも家族旅行と修学旅行で行ったことあるよー。りっくんは?」
「俺は修学旅行で行ったきりだな」
確か修学旅行の日は雨が降っててちゃんと観光出来なかったんだっけ……。
こういうイベントがある日に限って雨が降るって結構あるあるだよな。
座っている席順は廊下側から和仁、遥、俺。女子は柏木、有彩、陽菜。
3人席を後ろに回し、6人で向かい合うように腰を下ろしている。
「京都って何があったっけ?」
「なんだよ理玖、そんなことも知らないのか?」
「そういうお前は知ってんのかよ」
バカにしたような目で見てくる
「京都と言えば……そう! 美人が多い!」
「お前が京都にどんなイメージを持ってるのかはよく分かったから今すぐ京都府民に
こいつもう鏡にでも吸い込まれて消えればいいのに。
「あはは……和仁、他にもたくさんあるでしょ?」
「他……? そうか、舞妓さんだな!?」
「結局女じゃねえか」
ダメだこいつ手遅れだ。
まぁ俺も寺とか和とか抹茶のイメージしかないし知識自体は和仁といい勝負だろうけどな。
「理玖くん、これ食べますか?」
控えめな声と共に差し出されたのは有名なきのこ型のお菓子だった。
「サンキュー、有彩。きのことは分かってるな」
きのこ派の俺大歓喜。
「はっ、頭がバカなら舌もバカなんだな。普通たけのこだろ?」
「お前こそ頭が残念なら舌も残念だな。普通はきのこだろ」
なんとなくきのこの方があっさりしてて食いやすいだろうが。
たけのこはなんか途中で飽きる。
「誰が残念だてめえ!! 今日という今日は決着着けてやらぁ!!」
「てめえこそ誰がバカだ!! 上等だ!! 謝るなら今の内だぞ!!」
「理玖も和仁もケンカはダメだよ!?」
「「ゲームで勝負だ!!」」
「あ、ケンカじゃないんだ……」
「この2人実は結構仲良いよね」
「えーっと、これは……仲良いことになるんでしょうか?」
流石の俺たちも新幹線の中で殴り合うことはない。
和仁1人ならともかく、周りの人に迷惑をかけるのはいただけないしな。
使い分け、大事。TPOだ。
「ゲームなら私もやる! ちなみに私はたけのこ派だから理玖君の敵だね!」
「よぉーし柏木。あのバカに地獄見せてやろうぜ」
「流石に2対1は分が悪いな……きのこ派の仲間を集う!」
「私はきのこ派ですけど……そのゲーム機持っていないので応援してます」
「あたしはどちらかと言えばたけのこ派だから……ごめんねりっくん」
孤立してしまった……いや、まだ俺には遥がいる!
「遥、お前はきのこ派だよな?」
「僕きのこもたけのこも両方好きだよ?」
世界中の人間がこの考え方なら世界に戦争は起こらない。ラブアンドピース。
「でもゲーム機はあるから理玖のチームに入るね」
「サンキュー遥。やっぱ頼れるのはお前だけだ」
こいつが女だったらしっかり惚れてうっかり告白してるところだ。
……なんでこいつ男に産まれてしまったんだろうなぁ。
「りっくんりっくん、お菓子食べる?」
「……変なのじゃなければ食う。何があるんだ?」
「カレー味のチョコとか!」
「それただのカレールゥじゃねえか」
「違うよー、ほら! パッケージ!」
確かにカレー味のチョコレートって書いてあるな……。
誰だよってかどこの会社だよ……こんなもん考えたの。
普通に考えて好奇心以外で誰が買うんだこれ……というかどこに売ってあるんだ?
陽菜にパッケージごと中身を突き返し、残りの移動時間はゲームして過ごした。
♦︎♦︎♦︎
1時間ぐらい経過して、俺たちを乗せた新幹線は京都に到着した。
なんか新幹線のホームってあまり足を踏み入れないせいかたまに来ると謎にそわそわするんだよな。俺だけ? 俺だけか。
「なんか僕……新幹線のホームに来るとちょっとわくわくしちゃうんだよね」
「やっぱお前大親友だ」
「えっ、なに? どうしたの? なんで急に握手求めてくるの?」
戸惑いながら華奢な手を差し出してくる遥に構わず、力強く握り返す。
やだ、お肌すべすべ、手小っちゃい。この子なんで本当男なんだろ。目隠しして手を握ったら絶対男だって気付かれない。
……なんなら、遥を知らない奴からしても男だって気付かれない。
「それでこれからどうするんですか?」
「叔父さんと叔母さんが車で迎えに来てくれてるって言ってたよ。とりあえず叔父さんたちの場所まで行こっ」
ポニテを揺らしながら柏木は俺たちを先導するように歩き出す。
「まず宿に行って、荷物置いてから観光だよな?」
「はい、流石にこの荷物を持って観光はちょっと……」
ま、そりゃそうだよな……っと。
さり気なく有彩の手からパステルグリーンのキャリーバッグを奪って歩き出す。
「え、あの……理玖くん。これぐらい自分で持ちますから、大丈夫ですよ」
有彩が一瞬だけポカンと口を開けたあと、慌てて後を追って来た。
「やっぱ右手だけで荷物持ってたら筋肉が偏って鍛えられるからな。俺は左右均等に鍛えたいんだよ。だから気にするな」
我ながらなんて適当な理由だ。
けど、荷物を持ってやりたくなったんだからしょうがない。
俺の訳の分からない理屈を聞いた有彩が、また一瞬だけポカンとした表情を浮かべ、すぐにクスクスとおかしそうに笑い出し、微笑んだ。
「そうですね、均等に鍛えないとですね。では、よろしくお願いします」
「おう、任せろ」
さて、行くか……なんか急にキャリーバッグが重たくなったような気がするような?
いやこれ気のせいじゃねえな。
後ろを振り返ると、陽菜が俺の黒いキャリーバッグに腰掛けて頬を膨らませてこっちを見ていた。
……なにやってんだお前。
「なんだよ、なんでフグの真似しながらキャリーバッグに座ってんの? 重くて進まないから退けよ」
「フグの真似じゃないよ!! あとあたし重くないから! 友達からも軽いって言われてるし!!」
「その言い方だとお前がただのビッチになるからやめとけよ? あと俺が言ったのはいくらお前が軽くても人1人分の体重がかかった物を引っ張るのは疲れるからって意味だ」
実際陽菜は太ってるようには見えないし、多分女子の中でも軽めの方なんだろうな。
……身長小さい分の栄養が胸にいってるんだろうけど、それでどれだけ体重に影響してるかは知らん。
「有彩だけ荷物持ってもらうなんて不公平だよ! だからあたしのも持って欲しい!」
「両手塞がってるから無理」
「だから座ってあたしも荷物になるよ!」
「文字通りお荷物ってか! はっはっは! こいつは1本取られたな! いいから早く退け」
大体有彩の荷物を持ったのだって有彩と話しててたまたま荷物が目に付いたからだ。
「……はぁ。あとでソフトクリームでも奢ってやるから」
「ほんとっ!? わーいやったぁ!! りっくん大好きー!!」
「ソフトクリームの値段の好きって安すぎじゃね?」
「じゃあ高嶋さんの荷物は僕が持つよ。僕も両腕均等に鍛えないと、ね?」
……その言い訳流行らすのやめて欲しいんだけど……。
え? なに? お前らそれ気に入ったの?
「よろしくね、小鳥遊君!」
「はい、よろしくされました。……どうしたの和仁!? 視線で人を殺せそうだよ!?」
「どうして遥までナチュラルに女子に頼られるんだよ!? 俺だって力仕事なら得意なのに!!」
その力仕事ってケンカもしくはリア充の排除って意味か? それが女子の為になるケースは少ないだろうよ。
「僕はついでに頼られた感はあるけど、理玖の場合自分からさり気なくそういうことが出来るから頼られるんだと思うよ?」
「つまり、相手から荷物を持ってと言われる前に自分で持ちに行くってってことか……! なるほど、分かった! おい柏木ィ!! その荷物寄越せやぁ!!」
違う、そういうことじゃない。遥も苦笑してんじゃねえか。
「え、何!? 追い剥ぎ!? 強盗!?」
「ねえ理玖……僕なにか間違ったこと言っちゃったのかな?」
「いや、間違ってるのはあいつの生き様だから気にするなよ」
女子の荷物を持ちに行くのにあんな鬼気迫る表情するのは世界中で和仁だけだから。
「でも、ああやってすぐに行動出来るのは和仁の良いところだよね! 僕も見習わないと!」
「お前のポジティブ精神とフォロー力には恐れ入るよ」
お、でも陽菜と有彩が状況を説明したのか柏木も素直に和仁に荷物を渡したな。良かった、あのままの顔で和仁が迫ってたら警察呼ばないといけなくなるところだった。
もしくは周りの人が勝手に呼んでたか、過程が変わるだけで結末は変わらないな。
「――おーい!! なるー!!!」
なんか大きい声でなんか叫んでる人がいるな。なるってことは柏木だからあれが親戚の人か?
「
あ、やっぱ柏木の親戚か。てか足早いな。もう側まで辿り着いてる。
「お、君たちがなるの友達だね? 初めまして、私は
明るめの茶髪に緩くウェーブがかかった大人っぽい雰囲気に有彩よりも僅かに高い身長の女性だ。
髪形だけじゃなくて全体的になんか大人っぽい。
「あたしは高嶋陽菜です! えっと、天音さんでいいですか?」
「うん、いいよー。みんなも名前でいいからね?」
なんかめっちゃフランクだな。流石柏木の従姉ってところか。
「あ、はい。僕は小鳥遊遥って言います。えっと……一応こう見えて男です」
「え、そんなに可愛い顔してるのに? やっぱりよく女の子と間違われるでしょ?」
「はい、メンズのお店に入ったらすごい不思議そうな顔して見られます……」
遥が新規の店を開拓する時は大体俺も一緒に行って店員に説明するのがお約束になっている。
あと、男子トイレ入ったら遥を見た他の男が一旦性別の札を確認しに外に出ていくことも多い。
「私は竜胆有彩と申します。よろしくお願いします」
「そんなに硬くならなくてもいいって! よろしくね!」
有彩って結構人見知りだからな。
俺が初めて有彩と会話した時も大分距離がある感じだったし。
「橘理玖です。よろしくお願いします」
「お、君が噂の理玖君かー。なるがいつもお世話になってるみたいだね」
「……おい、柏木。お前一体何を話した?」
「えっと、女装が趣味でいつもリンチされかかってて男の子たちに追いかけられてる人?」
「クソッ!! 色々と省略すれば大体それで合ってるのが腹が立つ!! でも女装は誤解だ!!」
あとその言い方はなんか俺が男に尻狙われてるみたいな感じになるからやめようね!!
「うんうん、聞いてた通り元気があって面白い子だね! ……それで、そっちの子が――」
「――どうも、あなたに会う為に産まれてきました。桐島和仁です」
生き恥を晒していくぅ。存在が恥なんだからもうこれ以上恥に恥を重ねなくてもいいだろ。
「あははっ、君も面白いね! みんな聞いてた通り個性的な子ばっかりだね! とりあえず続きは車の中で話そっか! ほら、乗って乗って!」
天音さんの声で8人乗りの車に乗り込む。
……さり気なく和仁が助手席に乗ろうとしていたのを首根っこ掴んで阻止して後部座席に放り込んでおく。
「そう言えば叔父さんと叔母さんが迎えに来るって話だったよね?」
「お父さんとお母さんは忙しくて手が離せなくなっちゃったから代わりに私が来たってワケ! ビックリした?」
車内で他愛のない会話をしながら、車は目的地である旅館まで動き始め、数十分後に普通に到着した。
天音さんのご両親にも挨拶をして、部屋に荷物を置きに行ってから観光の為に入り口の所で集合ってことに。
「和室かー! やっぱいいね!」
「だな。とりあえず部屋見るのはあとでも出来るから必要な物持って早いとこ下に行こうぜ」
「そうだぞ、女子を待たせると怖えんだからな?」
そういや和仁のとこ姉ちゃんが2人ぐらいいるんだっけ? 昔から余程しごかれたんだろうな。
準備の出来た俺たちは足早に入口へと向かった。
観光には天音さんが着いてきてくれて、色々と案内してくれるらしい。
入り口で女性陣と合流した俺たちは、京都の町へと繰り出した。
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