第3話 同棲に至るきっかけが修羅場っぽい②
「ひ、陽菜……これは、その……誤解なんだ!!」
「そ、そうですよ!! 私が転びそうになって、理玖くんは受け止めてくれたんです!!」
陽菜の目からハイライトが消えかかっておられる!?
いや、まだ完全に消えてないだけマシだ!!
「本当に誤解なんだって!! 話を聞いてくれ!!」
「なにが……誤解なの?」
ゆらり、と足音を立てずに陽菜が近づいてくる。
「2人でえっちなビデオや本を見てそのプレイをしようとしてたんでしょ!? そういうことなんでしょ!?」
「今考えうる限り最悪の誤解のされ方だちくしょう!!」
見られたらまずいものが奇跡的な混ざり方して想像より上の誤解してやがった!!
どんな化学変化だよ!?
あぁ!? 竜胆が今の発言を聞いて更に赤く!? こいつ想像したのか!? 作家やるようなやつがそういうの想像したらダメだろ!!
「違う!! 全部たまたまだ!! 竜胆は今日うちに用事があって、これは俺が昨日観たまま放置してただけ!!」
俺はなんで幼馴染に大人の本とDVDが置いてある理由を説明をしてるんだ!?
どんな拷問だよ!?
「え? そうなの? なんだぁ……あたしはてっきり……」
「いや普通に考えたらその勘違いには至らないだろ……おーい、竜胆ー? 帰ってこーい」
「はっ!? ……理玖くん、昨夜はとっても……その、激しかったです……」
「理玖くんそんなことした覚えないってよ」
体は清らか、心も清らか、それ即ち童貞だ。
昨夜どころかさっきからまだ数分しか経ってねえんですよ。
というか女子に言われる内容じゃねえ。
「でも、どうして竜胆さんがりっくんのお家にいるの? その理由は聞いてないけど」
「あー……それは、その……」
「私が家の事情で誰かと一緒にルームシェアをしないといけなくなってですね? お母さん的には女性だけだと心配だから、とのことで」
「えっと……だからりっくんの家に同棲させてもらおうってこと、かな?」
「……はい、それに私、こういう時に頼れるような友達がいないんだなって改めて思いました」
竜胆の話を聞いた陽菜が何かを思案し始めた? ……おいおい、なんか嫌な予感がするぞ?
こういう時の陽菜は大体何かをやらかすと、俺の中の勘がそう言ってる。
「よし! だったらあたしもりっくんのお家に住むよ!」
「なにがよしなのか1から説明してもらおうか!?」
どこからどう繋げたらその答えに辿り着けるんだ!? 全く意味が分からねえ!!
「だって、りっくんのお家まだお部屋余ってるでしょ? 男子と女子が1つ屋根の下で同棲とか間違いが起きかねないじゃん」
「なななな、何を言ってるんですか!?」
「可能性の話だよ! でも、誰かが間に入ればそういうことになる可能性も低くなるでしょ? だから、あたしも同棲する! L.E.D! 照明終了!」
「それを言うならQ.E.Dだ、このおバカ!! それだとただ電球の寿命が尽きただけだろうが!! 覚えたての言葉使おうとするからこういうことになるんだよ!!」
まさか証明を照明とか言ってないだろうな……勉強苦手じゃないくせに土台がアホすぎるんだよ……。
「大体俺が2人同時に手を出そうとしたら意味がねえだろうが!!」
「手を出すの?」
「手を出せるんですか?」
「出さないけども!! そういうことになったら困るだろって話だ!! ……おい待て、なんで2人同時にため息を吐いた!?」
まるでこのヘタレがとでも言いたげな目を向けてきやがる……手を出して欲しいのか!?
「ヘタレは置いておいて、これからよろしくね? 竜胆さん!」
「ヘタレは置いておいて、これからよろしくお願いします、高嶋さん」
「誰がヘタレだ!! 人に言えないことしてやろうか!?」
「出来るの?」
「出来るんですか?」
「ごめんなさい」
勢いよく土下座をかまし、頭上から降り注ぐ2人分のため息を頭で受け止める。
だからなんのため息だよ!?
「……とりあえず、陽菜はちゃんとおじさんとおばさんに電話して許可取ること! 俺も叔父さんに電話してくるから」
……そもそも、どうして俺は同棲をすんなり受け入れてるんだろうな……。
同い年の女子2人に同棲を申し込まれて、それを、承諾するのなんかどう考えても普通じゃないよな?
……はぁ、電話してこよ。
♦︎♦︎♦︎
「うん、そういう訳だから。うん! ありがとう!」
「その様子だと、ご両親は快諾してくれたみたいですね」
「うん! 2つ返事だったよ! えへへー……りっくんと同棲かー!」
「高嶋さんは理玖くんのことが好き、なんですよね?」
おずおずと様子を伺うように、竜胆さんがそんなことを聞いてきた。
「ううん? 違うよ?」
「え? でも、そういう風にしか見えないですよ?」
「あたしはりっくんが好きじゃなくて、大好きなの! 子供の頃からずっと、りっくんだけが大好き!」
「あ、あぁ……なるほど。私の言葉じゃ規模が小さかったわけですね」
「そういうこと! 竜胆さんもりっくんのことが好きだよね?」
好きという言葉を聞いた瞬間、竜胆さんは耳まで真っ赤にして、こくりと頷いた。
うわー……同性のあたしから見てもとってもいじらしくてめちゃくちゃ可愛いなぁ。
「私、実は小説を書いてて……今でこそ書籍化されてはいますけど、最初は本当に人気が無くて、書くのを辞めてしまおうかと思っていたくらいでした」
「へぇー、書籍化なんて凄いね! で、どうして書くのを続けようと思ったの?」
「書き始めた当初からある1人の読者さんがずっと応援してくれていたんです。その人がずっと支えてくれたから今の私があります」
「それがりっくんだった、ってこと?」
凄く魅力的な微笑みを浮かべ、幸せを噛みしめるように竜胆さんは頷いた。
「書籍化して、その人にもし良ければ会いませんか? って連絡をして、その場に来たのが同じクラスの理玖くんでした」
「わぁ! すっごい偶然だね! なんかおとぎ話みたい!」
「はい! あそこまで熱心に応援してくれる人が悪い人なわけがないっては思っていたので、どんな人が相手でも受け入れるつもりでしたけど、理玖くんが来て、運命だって思いました!」
「……そっか! なんだかりっくんの良さを分かってくれる人が出来るって、嬉しいな!」
竜胆さんはきっと、あたしに負けないぐらいりっくんのことが大好きだから、りっくんと同棲することを選んだんだね。
「でも、あたし負けないからね? 有彩」
「同棲するっていう点では条件はフェアです。正々堂々勝負ですよ? 陽菜ちゃん」
あたしたちはお互いに笑いながら握手を交わした。
♦︎♦︎♦︎
『もしもし、理玖か? どうした?』
『叔父さん……その、ちょっと頼みがあるんだけど……』
『おう、いいぞ!』
『まだ何も言ってないよ……』
達哉叔父さんが電話の向こうで豪快に笑い始める。
なにがそこまでおかしいんだろうか。
『俺は嬉しいんだよ。小さい頃からお前、俺に面倒かけないようにって頼ってくれてなかったからな! そんな理玖が初めて俺に頼み事をしようとしてるんだぞ? こんなに嬉しいことがあるか?』
『……叔父さん、ありがとう。それで……頼み事なんだけど、クラスメイトの女子と、陽菜がこのマンションで一緒に暮らしたいらしいんだ』
電話がカシャン、と落ちる音が耳元で鳴り響いた。
多分、叔父さんがびっくりしすぎてスマホを落としたんだと思う。
……何を冷静に分析してるんだ、俺は。
『陽菜ちゃんとその女の子と同棲するのか!? 何をしたらそんな状況になるんだ!?』
『俺が聞きたいよ!!』
『……すまん、とりあえずそうなった経緯を聞かせてくれ』
俺は叔父さんに今日あったことを話した。
もちろん、竜胆とソファに倒れ込んで陽菜に現場を見られで凄まじい誤解を受けたことを除いて。
『なるほどなぁ……竜胆さんとやらの事情は分かった。同棲のことをよく隠さずに言ってくれたな』
『まぁ、隠してても叔父さんたまに帰ってくるんだし、遅かれ早かれバレるじゃん』
『ははは! それもそうだな! ……同棲するのはいいけどな、避妊はちゃんとするんだぞ?』
『しねえよ!?』
『避妊しないのか!?』
『そういう意味じゃない!! とにかく、ちゃんと伝えたから!!』
全く、ああいうところがなければめちゃくちゃ尊敬出来てカッコいい人なのに……。
リビングへ戻ると、何故か陽菜と竜胆が笑顔で握手してたんだけど、この短時間でこの2人になにがあった?
「なんで握手してるのかは知らんけど、ちゃんとおじさんとおばさんに許可取ったか?」
「うん! りっくんと同棲するって言ったら今夜はお赤飯だーって言ってたよ!」
「なんでだろうな……俺が理解出来ないところで話が勝手にどんどん進んでる気がする……」
「それで、これからどうしましょうか?」
「まずは2人の荷物をここに運ばないといけないだろ。引っ越し業者にでも頼むか、最低限の物だけ持ってきて、あとは買い揃えるかだな」
「そうですね、生活費はお父さんたちから振り込まれますし、私も多少は貯金がありますから、買った方が早いかもしれません」
ちょうど明日から休日だし、その間に引っ越しを済ませた方がよさそうだな。
やらなきゃいけないことは早めに済ましておくに越したことはない。
「陽菜は今から帰って、今必要な荷物だけ取ってこいよ」
「分かった! またあとでね、りっくん!」
「陽菜ちゃんってお家近いんですか?」
「まぁ、向かいにある一軒家だからな……本当なんであいつ同棲する必要あるんだか……」
……というか、竜胆って陽菜のこと名前で呼んでたっけ? あぁ、さっき握手をする前になにかあったのか。
「竜胆はどうする? 荷物持ち手伝おうか?」
「はい、申し訳ないんですけど……お願いしてもいいですか?」
「オーケー、じゃあ行こうか」
「……理玖くん、ありがとうございます!」
そう言って、笑顔を浮かべる竜胆の笑顔は、これまでのどの笑顔よりも記憶に残るような、眩しすぎて目を細めてしまうレベルの笑顔だった。
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