第31話 女の子の赤ちゃんが生まれた。ぼくの幸せは最高潮に達した。
年が明けて帰国したら、つぎは四月、事務所を共同事務所にリニューアルだ。直後、沙希さんの出産があった。ふたりで沙希さんと赤ちゃんのお見舞いにいった。沙希さんの旦那さんにはじめて会って、お互いあいさつした。赤ちゃんは女の子で、子ザルみたいだった。
子ザルのせいではないんだけど、祥子の様子がおかしくて、産科の先生に診てもらったら、妊娠しているといわれた。なんてタイミングよく具合悪くなるんだ。
出産のために祥子は実家に帰ることになったんだけど、ぼくはずうずうしいから、一緒に実家に泊まることにした。祥子の実家から、職場である自宅へ通った。撮影ででかけることも多いから、どちらに泊まってもあまり変わらない気もした。実家にいる間にお母さんに料理を教わることができて、祥子は料理が得意になった。
祥子の妹のミカンちゃんは高校三年生で、大学受験だった。ぼくたちが勉強の邪魔になってしまうんじゃないかと心配したけど、本人は気にする様子もなく、余裕だといっていた。
祥子が小説家をやっていることは、いろんなことが怒涛のように押し寄せてうやむやのうちに問題にされることがなくなってしまった。どんなに反対しても祥子にはひとつも効き目がないし。
沙希さんが仕事を再開して共同事務所に合流した。沙希さんが撮影のときは、できるだけ赤ちゃんをあずかった。祥子はまだ妊娠中だったけど、もう赤ちゃんが生まれたみたいな感じになった。祥子の体調が悪く、ぼくも手を貸せないときは赤ちゃんを抱っこで撮影するしかなかった。しばらくは大変な時期がつづいた。
沙希さんの復帰第一号の仕事は、祥子の小説の表紙だった。ぼく向きではないので沙希さんにお願いした。その小説は、ぼくが一緒にくっついていって学校なんかを取材した結果創作された作品だった。撮影旅行でプロポーズした日の取材だ。
話の内容は、女の子が宙に浮いてしまう病気にかかるのだとか。ミステリではなく、ちょっぴりファンタジーな話らしい。ぼくは小説を読まないので詳しく知らない。話の内容を聞いた感じだと、イラストにして女の子を宙に浮かせた方がいいんじゃないかと思うけど、写真を使うのだという。どんな表紙になるのか楽しみな気がした。それにしても、前の年の夏ごろに書いていた小説が今頃まだ発売になっていないのかと驚いてしまう。書いて一年くらいしてやっと発売になるらしい。
秋の終わり、女の子の赤ちゃんが生まれた。ぼくの幸せは最高潮に達した。
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