第2話 冴えない彼女


 あっと言う間に引っ越しの日がやってくる。

どうやら父さんと母さんが引っ越して、荷物が無くなった後に、ここに住む奴が来るらしい。


 午前中に父さんたちの荷物を搬出。

午後にそいつの荷物を搬入。


 なに、俺忙しすぎない?

一日でなんでこんなに……。

目の前にはすでに引っ越しトラックが着ており、ドンドン荷物が運び出されている。

俺は細かいものを整理しながら、父さんたちの使っていた部屋を掃除する。


 思ったよりこの部屋広いんだな。

部屋の中身が空っぽになると、何となく寂しい。


「お兄、大丈夫かな? ご飯とか家の事できるかな?」


 先日とは違い、思いっきり不安そうな目で俺を見てくる。


「なんだ? 心配なのか? いいか、良き聞け。スーパーに弁当も売っている。掃除機も電源を入れれば動く。何も心配ないじゃないか」


「そうかな? そう、だね。きっとお兄が何とかしてくれるよねっ」


 できる範囲でな。

俺だってはじめてなんだから。そこは助け合っていこうよ。


「卓也、葵。そろそろ出るぞ」


 すでに引っ越しトラックは出発しており、父さんと母さんは玄関で待っていた。


「ごめん、もう出るの?」


「あぁ、荷物は明日の午前に着くからな。今から移動して向こうで一泊。すぐに新しい家に向かう」


 東京の家は会社が準備した家らしく、それなりに広いし駅も近いが家賃が激安らしい。

そこの高かったらきっと俺達も引っ越すことになったんだろうな。


「二人共気を付けてね。事故起こさないように」


「あぁ。家の事と葵の事は任せるぞ。たまに帰るからな」


「うん。お兄と喧嘩しないで頑張るよ」


 少ししんみりしたけど、車に乗って二人は出発した。

次に会うのはいつなんだろうか……。


「行っちゃったね」


「行ったな。どれ、今度はここに引っ越してくる奴がいる。準備でもするか」


「えー! 休憩しようよ! ココア飲みたい! クッキー食べたい!」


 うるさいな。お前はさっきからそんなに動いていないじゃないか。


「あー、わかった。休憩したら準備するぞ!」


「やったぁ! ココア、ココア」


 少し浮かれながら台所に走っていく葵。

今日から三人暮らしになる不安はないのだろうか?


――ピンポーン


 来た。初めまして知らない人。

これからよろしくだな。


 俺は玄関に行き、扉を開ける。

目の前には帽子をかぶった引っ越し業者さん。


「ちわー! 松島様のご自宅でよろしいでしょうか?」


「はい、合っています」


「お荷物はどちらの部屋に」


 俺は業者さんを部屋に案内し、早速荷物を入れてもらう。

軽くトラックを覗いたが思ったより荷物は少ない。


 パタパタしていると、俺に向かって歩いてくる奴が目に入る。

ジーパンにシャツ、それに黒の深い帽子をかぶった奴だ。

こいつが同居するやつか。


 そいつは俺の目の前に立ち、帽子を取った。

え? 帽子の中から長い髪が落ちてきた。


「初めまして、杜都陽菜もりみやひなと言います」


 女? 男じゃないのか?


「お兄! 女の子だよ! トラックから女の子が出てきた!」


 いちいちうるさい。俺だって見れば分かる。

黒く長いぼさっとした髪に、黒縁メガネ。

それに、地味な服でパッとしない印象だ。


「えっと、松島卓也まつしまたくやです。初めまして」


松島葵まつしまあおいだよ! よろしくね」


 父さん、女の子だよ?

男じゃないよ? なんで言ってくれないのさ。

聞かなかった俺も悪いかもしれないけどさ、言ってくれよ。


「た、立ち話も何なんだし、どうぞ」


 俺は彼女をリビングに案内し、軽く家の案内をする。


「終わりましたー! ここにサインをお願いします!」


 業者さんが運び終わり、空っぽになった部屋に再び箱の山が出来上がっている。


「荷解き、しますね」


 ソファーに座っていた彼女は立ち上がり、部屋に行こうとする。

正直どう接していいのか分からない。


「お兄、手伝わないの? 男なのに」


 こいつ……。まぁ、言っている事は分かる。

ここで、少し打ち解けあう必要があるな。

初日からギクシャクしてはダメだろ。


 父さんたちの部屋、改め彼女の部屋になった。


――コンコン


『はい』


「あー、何か手伝うか?」


『大丈夫ですよ。ご迷惑はかけないようにしますので』


 不要と言われた。

もしかして、拒否られているのか?

この先、仲良くできるのか?


 初日から不安要素しかない。

父さんと一緒に引っ越した方が良かったのか?

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