第3話 陽菜の両親


「陽菜、来春お父さん転勤になった」


 突然言われた引っ越し。

今日は久々に家族そろっての夕飯だと思ったのに。


「引っ越すの?」


 春から高校に進学が決まっている。

今さら新しい学校に転校するの?


「父さんは会社の用意した家に住む予定だ。陽菜は学校があるだろ? 折角受かったんだ、通えばいい」


 お父さん一人で単身赴任か。

普段から仕事仕事と言い、朝早くから深夜まで帰ってこない。

居なくなっても今の生活が変わるわけではない。


「お母さんと二人で残る事に?」


「私もお父さんに着いていく事にしたの。ほら、この人家事とか全然できないでしょ?」


 そんな事言ってるけど、お母さんは最近家事を全くしていない。

たまにはするけど、今では私が一人で家事を回している。


 それに、町内会の仕事とか同窓会の係とか何かに理由を着け自宅を開ける事が多い。

臨時で仕事もしているけど、普段の服装と違うし、仕事に行くようには見えない。


「私はどうすれば?」


「会社の先輩も今回引っ越すんだ。そこに居候させてもらうようにお願いしている。心配する事は無いぞ」


「そうそう、陽菜ももう大人なんだし、親から巣立つ時が来たのよ」


 この仮面夫婦め。

私はお父さんがたまに知らない香水の匂いを付けて帰ってくることを知っている。

お母さんも外で仕事と言いつつ、何をしているのか察しが付く。


 ようは私が邪魔なんだね。

いつからだろう、こんな風になったのは。


――


「パパ! テストで百点取ったよ!」


「ははっ、それはすごいな! よーし、今日は陽菜の好きなシチューにしよう!」


「そうね、おいしいシチューにしましょう」


「やったー、パパ、ママありがとう! 次のテストも頑張るね!」


 小学校の時、テストでいい点を取ると家族が明るくなった。

だから勉強を一番に頑張ると決めた。


 中学。

好きだった絵も美術部で一生懸命練習し、コンクールに出せるようになった。

描くのが好きだった。


 お父さん、お母さん、私の描いた絵が金賞取ったの。

自宅に描いた絵を持ち帰り、家族が帰るまでドキドキしながら待った。

褒めてもらえる、みんな喜んでくれるかな。


 だけど、その日お父さんもお母さんも帰ってこなかった。

お父さんは仕事、お母さんも臨時の仕事。

きっと私だけに二人から連絡が来ている。


 お父さんもお母さんもお互いに連絡をしていないだろう。

私が一人で家にいるなんて知らないだろう。


 家族って何?

私はなんでここに居るの?

いつも一人……。


――


「いいよ。私も一人でできる事多いし、そっちの家には迷惑をかけない」


 両親が笑顔になる。

普通は寂しがらない? 一人娘と一緒に暮らせないんだよ?

そうか、本当に私の事はいいのか、邪魔なんだね。


「お金は陽菜の口座に定期的に振り込むから心配するな」


「私達も向こうで一生懸命頑張って来るから、陽菜も頑張ってね」


 向こうで何を頑張るの?

私は一人で生きていく。もう、人を頼らない。


 全部一人で。

居候って肩身が狭いの知ってるよね?


 もう、この二人には関係ないのか……。

そう、だよね。関係、無くなるんだよねきっと……。

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