吸血鬼の城

 水曜日の夜九時。 


 一弦いちげんコハルが、さらりと凄い事を言ったので、内容を理解するまで時間がかかった。

 本当に俺達は頭のネジが二~三本抜けている。

 吸血鬼アルキオネは、コハルちゃんと同じ制服を着てたんだから、同じ学園に紛れ込んでいるんだ。

 どうして、そこを、華麗にスルーしていたのか。


《それって、吸血鬼アルキオネが襲ってきたりしない?》


 マイクに向かって俺が言うと、《平気です》という意外にも明るい返事があった。それぞれの家から、ゾンビーゾンビーにログインしているので表情までは分からないが……。


《追っ払ったんで、もう大丈夫ですよ。それに、こっちから手を出さなければ、吸血鬼は何も出来ないはずだから》


 え?

 追っ払えるの? 吸血鬼って……。


《いやいや、無理でしょ。あんなの》


《うーん……。もう金曜日まで来ないと思います。きつく言いましたから》


 きつくって……。

 コハルちゃん。

 君は一体、吸血鬼アルキオネに何を言ったんだい?

 あの一等星のアルデンテですら手を焼いていたのに。


《お待たせ~。何の話?》


 タクヤがトイレから帰って来た。

 呑気な声がヘッドフォンから聞こえてくる。

 相変わらず休憩が多いが、今のところ許容できる範囲。さすがに女子高生を待たせて、ピ――――な事はしていない。いや、していないと信じたい。


《いや、コハルちゃんの教室に、昼休みになったら来るんだと》


《何が?》


吸血鬼アルキオネが》


《うそ》


《ほんと》


 数秒後。


《えええええ――――!! コハルちゃん大丈夫――――?》


 大声を出すときは、マイクをオッフだ!

 もしくは、外して思い切り驚いてくれ!


《タクヤ! 大声出すな! 鼓膜が破れてしまうと何度も言ってるだろ!》


 その後、一弦コハルが散々とタクヤをなだめて、ようやく平常運転になった。

 身の危険を感じたらすぐに連絡することを約束して貰う。


《なんだか疲れたな……。次の街はどっちだったっけ?》


 決戦の金曜日に向けてやるべき事は、レベルアップと装備の更新。それがそのまま俺達の戦力に変わる。

 もちろん天狼と共同戦線を張って、吸血鬼アルキオネを迎え撃つが、自分達の安全ぐらいは守れないと只のお荷物である。

 参考として、救世主が吸血鬼アルキオネと対峙したときのレベルは三十五だった。さすがに、そこまでは望まないが、三人合わせたら同じぐらいにはもっていきたい。


 パーティーに一弦コハルが加わったせいで、驚くほど早く経験値とゴールドを稼げていた。

 今はレベル十。

 あと二日で狙うんだ。

 もっと上を。


《えっとね。北西に行くと【宮前街】で、南西に進むと【鳥居前街】かな。どっちもかなり遠いけど、どうする?》


 【世界地図】というアイテムを持つタクヤが案内人ナビゲーターだ。【旅人のコンパス】を持つ俺が進路を決める。

 宮前って、現実リアルで俺が住んでいる街の名前だな。駅前にさびれた商店街があるだけの目立たない街だ。どっちに進もうか考えていると、タクヤが追加情報をくれた。


《ちなみに、宮前街の近くにcastle of alcyone コハルちゃんに刻印つけた吸血鬼の城があるみたい》


 アルキオネの城が?

 ああ、そういえば、クエストの一覧にアルキオネ討伐クエストがあったなぁ、なんて事を思い出しながら俺は進路を決定する。


《だったら、北西だ。現実リアルでアルキオネと殺り合う前に、ゾンビーゾンビーの、あいつの居場所をぶっ壊してやる》

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