第2話 窓際クランのじゃじゃ馬姫

 王都サンティアは栄えていた。

 魔石の生産という主要産業があり、国土も豊かだからだ。


「なんかいい匂いがするな」


 通りは人の往来が多く、道の脇には多くの屋台がやっていた。

 少年はいい匂いにつられて、近くの屋台に近づいた。


「お、少年!買っていくかい?」


 その屋台では、串焼きの肉のようなものが売られていた。

 肉の焼ける香ばしい匂いがしていて、とても美味しそうだった。

 もはや暴力的とも言えるその香りに、よだれをこらえることはできなかった。


「(じゅるり)いくらですか?」

「1本銭貨3枚だよ」

「安い!一本ください」

「まいど」


 少年は屋台のおじさんか串焼きを受け取ると、すぐにかぶりついた

 溢れる肉汁が口の中を蹂躙し、食いちぎった肉は口の中で溶けていく。


「まさに旨味の宝石箱やー」

「は?」

「いや美味しいってことです」

「そ、そうか。なら良かった」


 屋台の親父は少年がいきなり奇声をあげたので驚いた。

 少年と屋台の親父の心の距離はすこし遠ざかった。

 しかし、串焼きの美味しさは変わらず、少年はすぐに串焼きを一本食べ終わってしまった。


「あー美味しかった。これなんの肉なんですか?」

「あぁ、シーワームだよ」


 シーワームと聞いて少年は一瞬固まり、油をさしていない機械の様に屋台の方を向いた。

 数度、目を瞬いた後、意を決して屋台の親父に聞いた。


「え?シーワームって魔物の!?」

「そうだぞ」


 少年の顔から血の気が引いた。

 無理もない、さっき食べたものが虫、しかも魔物の虫だったの肉だったのだから。

 屋台の親父は少年の様子を不思議そうに見た後、何かに思いついた様ににやりと笑った。


「なんだ、少年。シーワームの肉は初めてか?さては、お上りさんだな?」

「はい。今日王都にきました」


 少し落ち込んでる少年に対して、屋台の親父は豪快に笑いながら言った。


「なら諦めろ。シーワームの肉はダンジョンの浅い層で大量に取れるから、王都ではよく出てくる」

「まじかー」


 少年は頭を抱えてうずくまった。

 虫の肉を食べたことが相当ショックだったらしい。

 うまいと虫、現実とファンタジーが少年の中で激しい戦いを繰り広げていた。

 まぁ、現実世界にも虫を食べる文化はあるが。


「おーい、少年。大丈夫かー」


 屋台のおじさんが声をかけると、少年はガバッと立ち上がって、大きな声で叫んだ。


「うまいものに罪はない」


 少年はすがすがしい顔をしていた。


「はは。少年は面白いな。ほれおっちゃんが一本サービスしてやろう」

「ありがとうございます」


 少年は屋台のおじさんからもらった肉にガブリとかぶりついた。

 シーワームの肉だとわかっていても、串焼きはとても美味しかった。


 ***


 そして、少年は衛兵に教えてもらった場所にきていた。


「・・ここ・・か?・・・ここだよな?」


 しかし、入るかどうか決めあぐねていた。

 それもそのはず、目の前にあるのは石造りの多いこの町の中で珍しく木造だった。

 その上、重そうな扉は歴史を感じさせる。

 赤い獅子の描かれた看板には一朝一夕ではできない深みがあった。

 いや、現実を見つめるべきだ。

 有り体に言うと、目的地が今にも崩れ落ちそうなボロ家だったからだ。


「うーん。とりあえず入ってみるか・・・」


 少年は家の前で数分間うろうろしていた。数回、行ったり来たりして、周りの家、一つ前の通りまで戻ってみたりもしていた。

 そして今、うろうろしていても進展がないと思い、少年がドアに手をかけて開こうとした。

 その時。


 ーーーガッシャーンーーー


「!!うわ!なんだ!?」


 ドアに手をかけたその瞬間。中からけたたましい音が聞こえてきた。

 何かが割れる様な音、投げたものが壁に当たる様な音、机が倒れる様な音。

 その後も、断続的に破壊音が聞こえてくる。


「・・・とりあえず、窓から覗いてみるか」


 ドアから少し離れたところに窓があった。

 そこからなら中の様子が伺えそうだった。

 少し高い位置にあるが、何かその辺の木箱とかを踏み台にすれば届きそうだった。


 少年はソロリソローリ窓に近づき、窓から中を覗こうとした。

 ちょうどその時、ドアが開き、中から男性が数人でてきた。


「まぁ、よーく考えるんだな。こんなクランと一緒に探索者人生を終えるか。俺たちのクランにきて大活躍するか」

「さすが兄貴!慈悲深いっす!!」

「ひゅー♪またねーレイラちゃーん」


 クランハウスから出てきたのは三人組の男性だった。身なりから見て、探索者だろうか?

 有り体に言えばチンピラで、あだ名をつけるとすればトン・チン・カンだろうか?いや、ヒョロ・チビ・デブというのも捨てがたい。


 少年が見ているとドアから何かが男たちめがけて飛び出してきた。

 飛んできたのは投擲用のナイフだった。

 男は間一髪避けることに成功したようだ。


「うわ。あぶねーな!帰るぞ」

「「まってー。あにきー」」

「二度とくるなーー!!」


 逃げるように三人の男性は大通りの方へ走り去っていった。

 中から聞こえてきたのは女の子の声の様だった。

 少しだけ出てきて、扉の向こう側にいる様だが、外開きの扉が邪魔で見ることができない。


 男性がいなくなると、すぐに扉を閉めてしまった様だ。

 そして、路地には静寂が帰ってきた。


「王都っておっかねー。どうしよう。ちょっと帰りたくなってきた」


 少年はその様子をみて、呆然としていた。

 正直、ナイフが飛び交うようなところで生き抜く自信が少年にはなかった。


「でも、ほかに行くあてもないしなー」


 幸い?中に人がいることはわかった。じゃあ、尋ねてみるしかない。

 数分、扉の前で悩んだ末、意を決して家の中に入った。


「ごめんくださーい」

「二度とくるなって!言っただろうがーーー!!」


 扉を開けると、靴の裏が少年の顔面に向かって迫ってきていた。


「へ?」

「あ」

「・・・あ」


 少年の顔面に綺麗なラ◯ダーキックが炸裂した。

 少年は入った扉から吹っ飛ばされて路地へと戻っていった。


「・・・・・し、白」

「ちょ、ちょっと!だ、大丈夫?!」


 少年は近づいてくる女性特有の綺麗な声を聞きながら意識を手放した。

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