25話.私のせい。

 「初めまして。新しく入社することになった佐々木ささき六花ろっかです。どうぞよろしくお願いいたします。」

 新入社員として入った彼女の短い自己紹介を聞いているといろいろ考えてしまうようになる。

 ここでの生活もすっかり安定して、もう後輩までできるようになってしまった。28の私は18のことの私と比べて少しも成長していないというのに、周りはどんどん変わっていき私だけあの頃に取り残された気分だ。千花に会いたい。

 「花沢先輩ですよね。これからお世話になります。よろしくお願いします。」

 佐々木が私の隣の席に来て個人的な挨拶をしてきた。

 「ああ、よろしく。」

 あ、ついため口で言ってしまった。千花のことを思っていたからなんだろうか。

 「ため口で大丈夫ですよ。気にしないでください。むしろそうしてください。」

 佐々木は私の表情を読んで爽やかな笑顔で気楽に接してくれることをお願いした。

 「じゃあ、そうするよ。ありがとう。」

 愛想笑いをしながら答えた。

 「いいえ、これからお世話になるのですから、早く仲良くなったほうがいいと思ってましたので。」

 そしてそのあとに見せる少し照れてるようなしぐさにまた千花のことを考えてしまう。もう千花と一緒にいた時間くらいに一人になってしまった。千花のことを忘れそうになる。

 「あの、先輩?どうかしましたか?いきなりぼうっとして。」

 「いや、ごめん。少し考え事をしていたの。」

 また、千花のことを考えてしまった。私、いつも千花のことばっかりだ。


 あの日、私の部屋に帰って千花に手紙を書いた。千花に会いたいという話、今日も千花のことを思った話、今日食べた昼ご飯の話、新しく入った新入社員の話、また先輩になれたという話。千花にしたい話をたくさん書いた。そしてまた泣いてしまった。もうすっかり泣き虫になってしまった。

 涙に濡れた手紙を封筒に入れて押し入れの中の箱に入れる。そこには千花に送ることのできなかった手紙たちがある。伝えなかった思い出があり、伝えなかった気持ちがこもっている。それを見ると千花ともっといろいろするべきだったなと思ってしまう。私が一緒に逃げようなんて言わなければよかったのにと思ってしまう。千花は私に出会うべきではなかったのにと思ってしまう。私はただ千花と一緒にいたかっただけだったのに。それがこんなにも難しいことだったなんて。何もかも私のせいだ。


 私のせいだ。

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