喉のつっかえと折り合いをつけて生きていくということ

 基本的に我々は歳を取るごとに成長する(そうありたい)生き物なので、思春期ゴリゴリ真っ只中の中学生時代をふと振り返って「あの時ああしておけばよかったな、あれは失敗だったな」みたいな反省が誰しもひとつやふたつはあると思うんですけど、本作はそういう喉につっかえたものに関するお話です。

 人は不完全な生き物なので、簡単に誰かの救いになれたりはしません。だから我々はそういう救済を物語に仮託してブッパするわけです。
「困っている人がいて、気の利いた行動をする人がいて、みんな拍手喝采スタンディングオベーション!」みたいなやつ、Twitterとかでよく見かけますよね。なんだかんだああいうの、みんな好きです。
 でもこの作者はその辺わりと冷静で、「そんな上手くいくわけねえだろ」とばかりに突き放します。
 主人公の新坂ちゃんは、中盤島井くんの抱える問題に相対することになるんですが、これがひとつも良いこと言えてない。新坂ちゃんが中学生の女の子だってことを差し引いても、まあ、しょうがないです。一個の人間のアイデンティティ・クライシスに際して、魔法みたいに気の利いた事を言える人なんて、そうそういないので。
 でもやっぱり実際のところ、そういう喉のつっかえの集合体が人生、みたいなところがあって、新坂ちゃんも島井くんも、それを抱えながら生きていかないといけないんですよね。っていうのを、この作者は誠実に書いているように感じます。

 新坂ちゃんの視点で進む本作は、新坂ちゃんから見た世界のことしかわかりません。自他の境界がはっきりと描かれた本作では、島井くんの内面はほぼ一切わかりません。心情の吐露も、たった一言だけです。読者は島井くんについての物語を(新坂ちゃんと同じように)ただ想像するしかないんです。
 でもその「行間を読む」ということが、元来の読書体験というものなんじゃないかなぁとも思います。

 わかりやすく味の濃い作品が多い昨今ですが、久しぶりに繊細な京料理を食べた気分でした。

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