第三章 燃やされて 3

 小太郎の家の壁が燃え上がる。家の半分は火に包まれた。すでに燃えている箇所は崩れ始めている。大体板間の辺りだろう。台所の部分までには火はまだ回っていない。

 吾平はそれを眺めながら吐き捨てた。

 「さっさと全部燃えちまえ。」

 火がまだ無事な壁と屋根を伝わっていく。吾平はにやけながら見物する。


 「何だこれ‼小太郎は無事なのか?」

 背後から聞こえる声に吾平はビクッとした。後ろを振り返ると弥次郎が燃え上がる家を見上げ驚いている。

 「一体何が起こったんだ。」

 弥次郎は吾平が燃やしたとは思っていないようだ。慌てふためいている様子を見ると吾平は噴き出しそうになる。

 「知らねえよ。」

 吾平は弥次郎を見下し言った。

 「俺も今気が付いて来たばかりなんだ。」

 「小太郎は…?」

 「さあな」

 二人の目の前で炎がメラメラと燃え上がる。

 「…あいつ助け出さないと…まだ燃えてない所があるし…そこからなら…」

 「馬鹿言うな。もう手遅れだぞ。」

 「でも…」

 弥次郎は何か言いたげにもじもじする。

 「何だ。さっきからお前いちいちうるさいぞ。」

 吾平が声を張り上げる。弥次郎はそれにビクッとし、しどろもどろに言った。

 「…あの宝も銭も燃えちまうな…」

 「何⁉」

 「俺見たんだ…小太郎が銭や宝を家の竈の中に隠しているのを…あのままじゃ燃えちまうかな…」

 「山の中じゃなかったのか⁉」

 吾平は慌てて火の様子を見た。

 台所、竈のある辺りはまだ無事だ。それを確認すると駆けだした。

 「ちきしょう‼」

 火の粉が舞う中、吾平は小太郎の家の中に飛び込んだ。

 



 「儂はすでに抜け穴を通って助かった。吾平はそのまま焼け死んでしまった。己の欲深さが身を滅ぼしてしまったのだ。」

 老主人は空を見上げて言った。いつの間にか辺りが茜色に染まっている。

 不意に藤吉が尋ねた。

 「抜け穴はどんな感じでした。狭かったですか?」

 「ううむ…狭かったなあ…」

 老主人は声を絞り出すように言った。

 「弥次郎はその時どうして宝が銭がなんて話を始めたのでしょう…」

 「さあてな…」

 老主人は答えられない。

 「弥次郎は今はどちらに?」

 「えっ?…まあどこかに行ってしまって…」

 藤吉は老主人の顔を真っすぐ見据える。その様子を主人は怪訝に感じた。

 「どうしたんだ…藤吉…?」

 「弥次郎がどこに行ったか?それはあなたが一番ご存じですよね。」

 老主人は目を丸くし驚き声を張り上げた。

 「何を言い出すんだ?」

 「小太郎は山の中で暮らし続けたかった。だからずっと山から離れなかった。山を降りて暮らしたかったのはあんたの方だろ。弥次郎。」

 藤吉は老主人に向かって言った。

 

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