三男の高校入試

 三男は在学中に不登校特例校として指定を受けた私立中学で優等生として3年間を過ごした。

 先生たちは生徒一人一人のペースを大切にしてくれ、多くの子ども達がノビノビと過ごし自信を取り戻して卒業していった。

 しかし全員がそうかというと、そうではない。少数ではあるが辞めていった生徒もいた。三男に聞いた事ではあるが、金銭的に続かなくなって地元公立の中学に転校しざるを得なかった生徒や、素行不良や喫煙が見つかって退学になった生徒もいたようだ。そして、やっぱり学校という場所に居続けることの難しい子どもも…

 結局はどんな場所でも合う合わないがあるのだと思う。

 

 三男は3年生になった。進学する高校を決めなくてはならなかった。この中学には高校もあったが定員は中学より少なく、先生たちは極力地元に帰るように勧めた。

 三男も先生の勧めのように地元に帰るつもりでいた。

3年生になったばかりの頃、担任は三男の成績なら県内で3番目の進学校ぐらい入学できるのではないかと言った。担任の言葉に三男自身も私もすっかりその気になり、夏休みにはこの高校の見学会に参加したりしたのだが、その後の模擬試験で合格ラインには全然届いていないことが分かった。三男は

「ま、家から遠いしね。通うの大変だし」

と苦笑した。私は心の中で"先生、かいかぶりすぎです〜"と笑った。

 まあ、それでもその一つ下の高校なら少し頑張れば合格ラインに入れそうだったので、秋からはその県で4番目の、しかも家から数百メートルの場所にある高校を目標に頑張ることになった。


 頑張ることになったとは言っても、もともと自分から学習する習慣のついてない三男である。本来なら無理だったろうと思う。ただ寮生活というのが良かった。寮にはそれぞれの地元で進学校ねらいの同級生が3人ほどいた。何人かの先生は度々寮の一室に彼らを集め、遅くまで受験勉強に付き合ってくれたらしい。そして自分では学習に頑張れないと思った三男は担任の勧めもあり、冬休みには地元の塾の冬季講習も受けた。


「内申点は凄く良いから…あとは実力を出し切るだけ!」と担任に言われ試験当日がきた。

 試験当日、会場の高校までは歩いて数分。

私も高校の門まで一緒に歩いた。

「忘れ物ない?受験票は?」などと聞きながら…。本人は「大丈夫だから」と言いながら、やはり緊張している様子だった。

 それでもしっかりした足取りで門を入っていくのを見送り、私は帰った。


 実は私は複雑な心境だった。普通の進学校に入学して、はたして3年間を過ごせるのか、滑り止めに受けて合格した少人数クラスの私立高校に入学した方が良いのではないかと思っていたのだ。

 この時に滑り止めとして合格していた私立高校には三男より2歳上の次男が通っていた。様々な専門科と普通科がある高校なのだが、普通科でも特に次男が在籍していた選抜クラスは少人数で編成され、国公立大学や有名私立大学を目指して手厚く学習指導をしてくれるようになっていた。そして三男も、このクラスを滑り止めとして受験し合格していたのだった。

 私は「もうお兄ちゃんと同じ高校にしておきなさい」と言いたい気持ちがずっと心にあったのだが、本人が公立に行きたいと言っている以上、それは言ってはいけないと思っていた。それは私自身が高校を選択する時に母に誘導され、看護師になるという決意ができないうちに衛生看護科を受験し合格してしまったという苦い経験があったからだった。


 学校に行くことも進学先を選ぶ事も親の安心のためであってはいけない。

 そして高校になって再び不登校になったとしても、たとえ退学することになったとしても、なんとかなる!

 長男が良いお手本を示してくれたではないか。

 私はまた自分に言い聞かせていた。

 

 さて、受験の日からジリジリとした気持ちで結果を待った。

「もう!どっちでもいいから!早く結果が知りたい!」

親子で叫んでいた。


 合格発表の日、発表後はそのまま高校で説明会があるため親子一緒に来るようにという事だった。発表には担任も来てくれるという。高校の駐車場が少ないので我が家の駐車場に停めてもらい、一緒に高校まで歩いた。

 少し早く高校に着いた。まだ合格者番号は張り出されておらず、沢山の受験生親子が待っていた。駐車場は満杯で中庭にもギッシリ車が並んでいた。

「これ…不合格になってても、説明会が終わるまで車が出せずに帰れないんじゃない?先生、うちに停めてきて良かったね。」

などと喋っていたら、何人かの高校の先生らしき人が校舎の窓に紙を張り出した。よくテレビで見るような映像と違い、紙が小さい…。A4用紙にたくさんの受験番号。いっせいに皆が校舎に近寄った。私は、なかなか校舎に近寄れず目をこらして見ようとしていると、少し前の方に進んでいた三男と担任が

「あった!番号あったよ!合格!」

と叫んだ。


 こうして三男は近くにある公立の進学校に入学した。そして、これを書いている時点でもうすぐ2年生になるのだが…さて、どうなる事やら…である。

 前の章にも書いたが「不登校だった息子たちの今」をとりあえず読んでみてほしい。

 

 三男については、まだまだ先が書けそうな気配だ。それは5年後か10年後になると思うが。


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