三男の中学校生活

 三男は山の上にある私立中学に入学した。

 まなざし教室の同級生も一緒だった。

 入学式までに何度か体験に来て、その間に車での道も覚えた私は、三男と寮生活のための荷物を乗せて学校まで運転していった。車で1時間ほどだった。

 

 入学式、1年生の新入学生は6人いた。これはそれまでにない人数だったそうだ。例年1年生の入学生は1人か2人で3年生になるまでに随時転入生があり、最終的に15〜16に人、学年によっては定員いっぱいの20人に達するのだとか。


 この学校に制服はない。三男には卒業式に着た紺色のスーツを着せた。

 体育館での入学式。10年ほど前にこの学校を創設したという学園長の話しや在校生の挨拶などの後、教室に入ると初めてのホームルームがあった。

 担任の先生は体格の良い明るい元気な男の先生だった。

 6人の新入生たちは、だいたいが緊張した様子でいたが、一人、よく喋る男の子がいた。

…あぁ、ADHDとかかな?…

という感じをうけた。

 入学生の全員が男の子かと思っていたら、よく見たら1人女の子がいた。チェックのシャツにパンツのラフな服装で髪の毛も手入れされているようには見えず、女の子だと気が付かなかったのだ。


 ホームルームが終わり、寮の部屋に荷物を運ぶはずだったのだが、まだ前の生徒の荷物が残っていて、娯楽室で荷物と一緒に待つことになった。

 娯楽室には漫画や本の他にテレビやそれに繋がるゲームなどが2台ほどあった。

 漫画を読んだりして暇を潰していたのだが、1時間ほどすると先生から部屋が空いたのでどうぞと案内があった。

 男子寮の部屋は校舎の3階にあった。

 もともと廃校になった小学校を利用しており、1階が食堂、2階が教室、3階が男子寮になっていたのだ。女子寮は別棟らしい。

 昔は教室だった部屋に仕切りなどのリフォームがしてありドアを入ると中央の通路部分の両横にそれぞれ2人、左右合わせて4人分の区画に分かれている。とても元が教室だったとは思えない。それぞれのスペースを分けているのは上部が空いてはいるが、ちやんとした壁だ。

 三男のスペースに出入り口のカーテンを開けて入るとベッドが一つと小さめの衣装ケースがあった。

 私と三男は、とりあえず布団や荷物を運び入れた。

 荷物を収納し終えるとなかなかに居心地の良さそうな空間が出来た。ベッドに寝転がった写真を一枚撮った。

 

 荷物の片付けがおわると私はもう、やる事がなかった。三男に「じゃあね、お母さん帰るね」とだけ言って寮の部屋を出た。

 三男は別段寂しそうでもなく、「じゃあね」と言うだけだった。

 私も多少の寂しさはあったが、すぐに週末がきて迎えにくる事を考えたら、それほどの寂しさはなかった。


 三男は3年間をこの中学で過ごした。

野球部でピッチャーを務め、陸上部では駅伝で活躍し、3年生では作文のコンクールに自らの不登校を題材にして好成績を治めた。すっかり優等生になっており、

「オレ、野球部のキャプテンで陸上部の部長で、クラスの委員長なんだ。成績はクラスで2番だけどね。」

などと言うのだ。因みに成績1番は入学式の時にただ一人だけの女子だった。彼女はかなりの努力家だと三男は言っていた。

 三男の場合は優等生なのは学校と寮にいる時だけで、休みで家に帰るとダラダラと過ごしている。

「学校と寮ではメチャクチャにカッコつけてるでしょ。」

と言ってやると

「まあね〜」

と笑うのだった。



 

 

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