三男の中学進学

 6年生になると、まなざし教室の生徒が2人になった。三男とその同級生の男子だ。ひと学年下の女子は父親の転勤により関西方面に転校していってしまった。

 

 まなざし教室は三男が3年生の頃が一番人数が多く賑やかだった。その頃のまなざし教室には6年生が4人もいたのだ。そしてその学年にはまなざしの同級生男子の姉がいた。我が家も長男と三男の兄弟で不登校児だが、その家も3歳違いの姉弟で不登校児だったのだ。



 その同級生姉だが、小学校を卒業すると他の多くの同級生達と同じように地元の公立中学に進学した。

 実は我が家の地区の公立中学校は教育モデル校として指定されている。先生たちは若者が多く、教育実習生も頻繁にやってくる。授業公開となると全国から教育関係者がたくさんやってきてPTA役員まで総出で受付やら駐車場案内などをやることになる。

 生徒たちも真面目な子が多いし、成績水準は学校全体に高い傾向にある。我が家の次男もそうだが、我が区の中学出身者の多くは高校に進学すると自分の成績が思っていたより良いことに驚く。それだけ中学全体のレベルが高いのだ。

 しかしそんな中学校でも、やはり不良とか悪といわれる生徒はいるし、長男のように不登校となる生徒もいる。不登校児の人数に関しては他校より多いと聞いた事がある。真偽は不明だが…。

 

 三男の同級生姉は最初は図書室で過ごしていたらしい。しかしある時、担任からとある中学校の事を教えられた。

 そこは不登校の子ども達を対象とする私立中学で、ひと学年の人数も少なく先生たちも子ども一人一人のペースで熱心に指導してくれると。

 同級生姉は何回かの見学と体験入学を経て、2年の時にその中学に転校した。

 彼女はその学校に転校したその日を自分の人生が変わった記念すべき日として、大学生になった今でも大切に覚えているという。


 私は三男が5年生の時にその話しを聞いた。その時はまだピンとこなかっのだが、6年生になり、進学のことを考えるようになると転校先の中学で元気に過ごしているその子の話しに興味が湧いた。

 とてもじゃないが、三男がこのまま地元の中学で過ごせるとは思えなかった。

 そこで6年生の秋、三男と一緒に同級生姉のいる、その中学へ見学に行ってみることにした。


 電車を乗り継ぎ最寄り駅に着くと、1人の先生が車で迎えに来てくれていた。そこから学校までは路線バスで30分ほどかかるうえに走っている本数は極端に少なかった。 

 駅を出発し少しすると山に入る。山道とはいっても隣県に続く国道で舗装はしっかりされており、道幅もしっかりあった。

 いくつかのトンネルをぬけながら山を登り、中学校についた。

 応接間で少し話しをした後、校舎内を見学したのだが、体育館に入ると途端に7〜8人の中学生達が寄ってきた。それがみな元気いっぱいで

「見学⁉︎見学⁉︎…何年生?」

「背高いなぁ! なかなかのイケメンだな!」

「バスケやる?」

と次から次へと人なつこく話しかけられた。

"この子達が不登校児なの…?"

と驚いているうちに先生が次の場所へ案内してくれた。

 その日は1日の生活などの説明を聞きながら、教室のほかに食堂や寮の部屋を見学し帰宅した。見学した三男の様子は"悪くない"感じだった。


 三男はその後、冬までに、まなざしの同級生と一緒に1日体験入学を1回、寮に泊まる1泊2日の体験入学を2回ほど経験した。

 どんな学校でも、その子によって合う合わないがあると思うが、長男は体験入学をとても楽しめたようだ。

 体験を終えて三男にどうするか聞くと、

「あの学校に行くよ」

と答えたのだった。



 

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