長男の居場所 6 放課後登校

 中学2年生になった長男は音楽教室とサッカーの応援という場所はあったが、公園のひまわり教室が閉鎖となったため平日の昼間には家にいる事が多くなった。

 ある日三者懇談があった。その日も家にいた長男だが、懇談の時間が遅く他の生徒と顔を合わす可能性が少ない為か一緒に教室に行くことが出来た。

 新しく担任となった先生は面白いということで子ども達から人気のあると噂の先生だった。

 

 "ゆるい"というべきか"ひょうきん"、というべきか"かたくない"というべきか…

ニコニコと人なつこい笑顔で少し話しをした後、先生は言った。

「みんなが帰った放課後だけ来てみたら?」


 次の日、6時の下校時間を見計らって一緒に登校し教室に行くとその担任は教室の壁に貼る学級目標を発泡スチロールで作っていた。

 パソコンでデザインした文字をパソコンに繋いだ機械で文字型に切り出す。そしてそれを発泡スチロールの板に貼り、今度は発泡スチロール専用のカッターを使って電気の熱で切っていくのだ。

 放課後にこんな作業をしているとは教師って大変だなと思ったのだが、見た事もない機械に私も長男も興味深々だった。先生は長男の様子を見ると

「やってみる?」

と発泡スチロールとカッターを差し出した。

長男は少し戸惑ったが、おずおずと受け取り発泡スチロールを切り始めた。

「うまい、うまい」

と先生は発泡スチロールのカットを長男に任せてパソコンの作業に取りかかった。

20分ほどだろうか。先生と長男と私で喋りながら作業をして過ごし、その日は帰った。


 それから毎日ではないが、放課後登校をするようになった。

 先生の作業を手伝うこともあったし、環境係りとして掃除をしたり歪んでいる机の列をまっすぐにする作業をしたり、世間話しをするだけの時もあった。

 

 いつも6時ぐらいからで、夕飯の支度をする主婦としては忙しい時間だったのだが、それでも先生との会話は私も楽しめるものだった。


 放課後登校を続けることで多少は学校という場所に触れることができ、またこの先生のおかげで長男は2年生の大きな行事、2泊3日の野外合宿に参加することができたのかもしれない。

 

 ちなみに野外合宿は

「メッチャ楽しかった〜」

 そうで、キャンプファイヤーの様子やクラスの出し物の話しなどをハイテンションでしてくれたのだった。

 …でも、やはり合宿が終わった次の朝からの登校はできないという…

 不思議である…


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