第3話 魔女様と猫
「魔女様おはよう!」
「おはようございます、魔女様」
私は今日もリリーと一緒に魔女様の家に来ました。
来た、のですが……魔女様はなぜかベッドの上で頭から布団を被ったまま動きません。
「魔女様? 大丈夫ですか?」
私が呼びかけると、魔女様は困り果てたような顔をのぞかせて、
「レイナ? 助けてぇ……」
「どうしたんですか?」
「うぅ……」
諦めた顔で唸りながら、魔女様はゆっくりと布団から出てきました。
そしてその頭には……
「ふふ、魔女様可愛い!」
「貴女は笑い過ぎよ!」
ぴょこぴょこと動く猫の耳。
リリーが声を上げるのも頷けます。その見るからにモフモフでふわふわな耳は後で一度撫でさせてもらわないと…………まあ、それは置いておくとして。
「えっと、その(可愛い)耳どうしたんですか?」
「……分からないわ」
「じゃあ、いつからそうなってるかは分かりますか?」
こういう時は焦らずひとつずつ解決していきましょう。
それにもし戻らなくてもこの可愛い魔女様を見ていられると思うと、それも悪くないと思ってしまう自分がいます。
「えっと、起きた時にはこうなってて、ノックが聞こえたから思わず……」
布団を被ってたんですね。でも、魔女様もこんなことあるんだ。
そう考えると、なんだかおかしくて笑ってしまいました。
「もう、貴女まで……」
魔女様は恥ずかしそうに顔を赤くして、ぴくぴくと耳を動かしています。
その仕草も可愛いです。
「ふふ、ごめんなさい」
「ねぇ、起きたときにそうなってたんなら、昨日の夜に何かあったんじゃない?」
リリーがぱぁっと顔を明るくして、人差し指を立てながら言いました。
「昨日……」
「うん! 私たちが帰ったあと、魔女様は何してたの?」
「そうねぇ、確か窓の外に猫がいるのを見つけて……」
🐾🐾🐾
「あの子達、ほんとに元気ね」
閉じたドアを見つめながら、ぐっと伸びをする。
あの子達がここに来るようになってから毎日が本当に賑やかになった。
その代り、一人で居る時の静けさが今までよりもずっと寂しく感じるんだけど。
「……ふふ、贅沢な悩みね」
ミャオ。
私の呟きに答えるように、透き通った鳴き声が聞こえてくる。
声の方を見ると白い猫が、出窓の上にちょこんと座っていた。
「あら、どうしたの?」
声をかけながら、動こうとしない白猫をそっと抱き上げる。
じっと見つめる青い瞳はまるで誰かさんみたいだ。
「そうだ。貴女お腹空いてないかしら?」
ミャアー。
「そう、じゃぁ一緒に食べましょうよ」
ニャー。
床に下ろすと、白猫は人懐っこい顔で足にすり寄ってきた。
それなりにいろんな事をしてきたつもりだったけれど、猫と食事なんて初めてね。
最近は不思議なことばっかりだわ。……まあ、悪くはないけれど。
🐾🐾🐾
「それからその子と一緒にご飯を食べて、ベッドに入ったとこまでは覚えてるんだけど……」
「まさか魔女様、その猫と魔法でくっついちゃった!?」
リリーがわざとらしく両手で口を押えながら言いました。
「そんなこと! ない、とも言えないわね……」
「……魔女様本気ですか?」
「実は魔法のことは私にも詳しくは分からないのよ。もしかしたら寝てる間にくっ付いちゃったかもしれないし……」
うーん。猫とくっ付くことなんてあるのかなぁ。
ん? そういえば魔女様、猫と一緒に寝たって言ってたよね。
まだわいわいと突拍子もない事を言い合っている二人を置いて、私は魔女様のベッドに近付きます。
その時、魔女様が被っていた布団の端がもぞもぞと動きました。
なるほど。
「魔女様」
ニャー……。
寝起きの白猫さんも眠そうに鳴きました。
「あら、その子まだいたのね。よかったぁ」
魔女様は心底安心したように胸を撫で下ろしています。
「わぁ可愛い! レイナ! 私にも触らせて!」
「はい、リリー。この子と遊んでて」
「やった!」
私は白猫さんをリリーに渡して、ほっとしている魔女様の隣まで行って、
「魔女様、その耳消そうとしてみましたか?」
「あ……まだ、やってなかったかも」
魔女様はゆっくりと、頭の上で可愛らしく動く両耳を押えます。
その手でそっと撫でると、最初から無かったかの様に猫の耳は消え、魔女様の指先からはいつもの綺麗な白髪がさらりと流れました。
「ふぅ。……ありがとうレイナ。貴女のおかげで助かったわ」
「いえいえ。それと魔女様」
「ん?」
「強くないんですから、お酒はほどほどに」
私が部屋の隅に何本も転がっている空き瓶を指さすと、
「ええ、気を付けるわ……」
魔女様は苦笑いをして答えました。
飲み過ぎていたのは心配ですが、昨日の食事はきっと楽しいものだったんでしょう。
魔女様が猫さんとはしゃぐ光景を想像すると、頬が緩んでしまいます。
可愛すぎです。
「レイナ! 魔女様! こっちでこの子と遊ぼうよ!」
「うん。今行くよ」
「ええ」
ミャオ。
三人と一匹。
今日はいつもより少しだけ賑やかで、いつもよりまったりした一日でした。
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