第8話 一人前の退治屋

 この時、巨大鬼の動きのモーションが大きかったのもあって、じっちゃんもルカもそれを紙一重でジャンプして避ける。そのタイミングで、じっちゃんが巨大鬼の太い腕に向かって念を込めた手刀を勢いよく振り落とした。


「鬼斬り!」

「グギャアアア!」

「そこっ!」


 痛みに叫び声を上げるヤツに向かって今度はルカの攻撃! いつの間にか手にしていた長い針を巨大鬼の目に向かって投げつける。無防備な顔にその針は全弾命中し、派手に弾けた。この爆発の反動でまた鬼は後方に倒れる。その無防備になった巨体に向かって、じっちゃんが素早く謎の粉を振りまいた。

 その粉は巨大な鬼の体にすーっと染み込んでいき、心臓付近に何かを浮かび上がらせる。


「アレがコアじゃああーッ!」


 その声を聞いた瞬間、俺の体が反射的に動いた。豆を握った手に精一杯の念を詰め込む。そうして、じっちゃんの指摘したそのコア目がけて渾身の力で煎り豆を投げつけた。


「鬼はァーッ! 外ーおーッ!」


 念の力でコーティングされた豆は巨大鬼のコアを感知してホーミングレーザーのように向かっていき全弾命中。その瞬間、アレほど硬かったヤツの体が薄皮をはぐようにポロポロと崩れ始めた。断末魔の叫びを上げる間もなく、厄災の巨大鬼は呆気なくその体を山の空気に溶かしていく。

 たったの数秒で、あれ程の巨体は倒れた時に生じたクレーターだけを残してあっさりと消滅してしまった。


「お、終わった……」

「やったな。これでお前もいっぱしの退治屋じゃ」


 ひと仕事終えた俺の頭をじっちゃんはワシャワシャと乱暴になでる。けど、俺は認められた嬉しさでその行為を甘んじて受けれていた。

 両親をなくして親類をたらいまわしにされて、唯一引き取ってくれたじっちゃん。血の繋がりなんてないのに本当の家族のように接してくれた。俺に能力があると知って、それでも強引に従わせようとせずに、俺の意志を尊重してくれた。

 そんなじっちゃんだったからこそ、辛い修行にも耐えきれたんだ。


 俺がじっちゃんから可愛がられる中、その光景をじいっとルカは眺めている。まるで自分の場違いさに戸惑うように、その目には困惑の色が見て取れた。

 散々俺の頭を満足するまで撫で回したじっちゃんは、そんな鬼の少女にも優しい眼差しを向ける。


「のう、鬼の娘さんよ。お主さえ良ければ一緒に来ぬか? 行く場所もないのじゃろう?」

「は?」

「そうだルカ、俺達と一緒に行こう。俺が君を守るから」


 彼女は最初、俺達の提案に理解が追いつかないようだった。だから、ただシンプルに何も言わずに手を差し出す。やがて何が言いたいのか分かったようで、ルカはぷいっと顔をそむけた。


「ど、どうしてもって言うなら……別に……」

「じゃあ決まりだ。行こう!」



 こうして俺達は一緒に地元に帰り、じっちゃんの骨董品屋の二階で同居する事になる。ルカの角は全く目立たなかったので、そのまま骨董品屋の看板娘として仕事をするようになった。

 人間として暮らすための一般常識や骨董品の知識は空いた時間に俺やじっちゃんで教えていく。鬼の頭は出来が良いのか、一度教えればすぐにそれを理解していった。一ヶ月もすれば、じっちゃんは俺より優秀だとルカに太鼓判を押すように。


 看板娘の登場によって、寂れた骨董屋もそれなりにお客さんが増えるようになってきた。増えた売上の結果を見てじっちゃんはホクホク顔だ。


「節分に鬼退治をして、福も連れ帰ってきたんじゃのう」

「ふふん。どうだ、これが私の実力だぞ」


 じっちゃんに褒められたルカは、胸に手を当てて嬉しそうに胸を張る。俺はそんな2人のやり取りに、おいおいと心の中でツッコミを入れた。


 裏のお仕事も、一人前になった俺とルカ、コンビで事に当たる。じっちゃんは隠居を決め込んで留守番だ。鬼の相棒がいるので、どんな妖も俺達の前では赤子も同然。

 それで評判も広がり、今では裏の仕事の方が忙しいくらいになっていた。


「誠吾、また妖退治の依頼だって」

「よし、じゃあ行ってくっか! じっちゃん、店よろしく!」

「おお、留守は任しとけい!」


 もうここには暗くふさぎ込む少女はいない。俺達は俺達の生き方で新しい答えを探す。たとえこの先にどんな困難が待ち構えていたって、2人で力を合わせてその壁を乗り越えていくんだ。

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最後の試練は鬼退治?! にゃべ♪ @nyabech2016

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