第7話  頼れる大先輩

「グアアアアアーッ!」


 死を覚悟していると、何故かふっとばされたのは巨人鬼の方だった。ズシイインと遙か後方で大きな振動が発生する。一体何が起こったんだ? 

 まだ倒れ込んでだままで混乱している俺に、聞き覚えのある声が呼びかけてきた。 


「遅いから様子を見に来たんじゃが、何をやっとるんだ?」

「じっちゃん?」

「確かに、アレはまだお前にはちと早いかのう……」


 俺を助けてくれたのは、退魔の師匠でもあるじっちゃんだった。じっちゃんは顎をさすりながら余裕の表情を浮かべている。流石は業界でも名の知れたベテラン。もしかしたら、あんな大物と渡り合った事が何度もあったのかも知れない。

 さすがのヤツもすぐには起き上がれないようだ。俺は頼れる大先輩の登場に心の糸がぷつんと来れる。


「じっちゃーん!」

「こら、抱きつくな! まだ終わっとらんぞ」

「じっちゃんアイツを倒してくれよ! 俺には無理だ」


 俺は涙と鼻水を垂らしながらじっちゃんに泣きついた。相手は規格外だし、可愛い弟子の頼みを聞いてくれると踏んだのだ。

 けれど、じっちゃんの顔は予想に反して厳しい表情に変わる。


「ばっかもーん! お前が倒すんだよ! そのための最終試練じゃろうが!」


 どうやら甘やかしてはくれないらしい。俺があの巨大鬼を倒す? 無茶振りにもほどがあるよじっちゃん……。


「無理だよ! さっき豆を投げつけたんだけど、かすり傷程度にしかならなかった……」

「何だ、ちゃんと効いとるじゃないか。なら十分じゃ」

「は、話聞いてた? だから……」

「聞いておるとも! ワシを耄碌もうろく扱いするな! 10年早いわ!」


 どうにもじっちゃんと話が噛み合わない。くそっ、何て言えばいいんだ。こんな口喧嘩をしている内にあの鬼が復活してしまう。

 それに、俺達のやり取りを見たルカが不安そうな顔をして微妙に手を動かしている。こっちもフォローすべきなのに、それが出来ないのがもどうにもどかしい。


「誠吾、あの鬼には弱点がある。それをお前が叩くんじゃ」

「じゃあじっちゃんがそれをやれば……」

「ばっかもーん! これはお前に与えた試練ぞ。お前がケリを付けんでどうする!」


 弱腰の俺に向かって、じっちゃんの雷が落ちる。そうだ、今はじっちゃんがいる。俺が失敗してもきっと問題ない。そう考えると急に何もかもが大丈夫な気がしてきた。偉大な人生の先輩が背中を押してくれているんだ。こんなに心強い事はない。

 倒れていた巨大鬼は意識を取り戻し、多少顔を振ったかと思うとムクリと起き上がった。動く恐怖の再起動だ。けど、今の俺はもう何も怖くない。俺が袋の豆に手をかけると、じっちゃんがぽんと肩に手を置いた。


「あの鬼の弱点はコアじゃ。それを出すまでは手伝ってやるからな」

「俺にも出来るんだよね?」

「当然じゃとも」


 じっちゃんは俺に向かって飛び切りの笑顔を見せる。何だかその表情を見ただけで十分な気がした。規格外の化け物だって倒す方法はある。じっちゃんが言うんだ、間違いなんてない。

 俺はその言葉を信じ、鬼のコアが出てくるまで力を溜める事に専念する。


「ウゴオオオー!」

「きなすったか! 喰らええい!」


 じっちゃんの間合いに入ったところで、ヤツは警戒してその動きを止めた。両腕でしっかり顔をガードしている。そんなのお構いなしに、じっちゃんは素早く攻撃に移った。退魔の札を一斉に空中にばらまくと、人差し指と中指を揃えて印を切る。その仕草と同時に札が一斉に巨大鬼に向かって飛んでいった。

 鬼に張り付いた札はその瞬間に爆発。ヤツの硬い肌を焦げ付かせる。


「やはりこの程度では足りんか。そこの鬼娘、ワシに力を貸してくれ!」

「えっ?」

「お主も目的は同じじゃろう。共にあの鬼を倒すんじゃ」

「わ、分かった」


 じっちゃんとルカは協力して巨大鬼に攻撃を加える。最初の札攻撃が大したダメージを与えらないと分かると、次は念攻撃、この攻撃でヤツに片膝をつかせる事に成功したものの、体の方はまだ無傷だ。巨大鬼の体の自動修復能力がフル稼働しているらしい。攻撃の痛みに対応出来るようになれば今度はヤツからの反撃が始まるだろう。

 そうなれば、じっちゃん達だってきっと無傷では済まされない。じっちゃんの言ってたコアは一体どこにあるんだ。それさえ分かれば――。


「はああーっ!」


 ルカもまた鬼の超能力を使って巨大鬼に攻撃をしている。きっと効果はあるのだろうけど、やっぱりヤツの修復能力の方が早いようだ。2人の攻撃を受けながらも、巨大鬼はゆっくりと起き上がる。

 そうしてかがみ込むと、その大きな手で2人を掴もうとした。

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