第45話

 残暑の厳しい、初秋の土曜日。

 新生徒会長、君藤くんとう芽依めいの宣言が、校内放送で流れる。


『それでは、これより第65回、星花祭を開催いたします。星花の乙女に相応しく、純粋な心と大胆な行動で、最高の文化祭にして参りましょう!』


 校舎に響く拍手。

 星花女子学園、秋のメインイベント。

 十の伝説に彩られ、後々まで語り継がれる、第65回星花祭の始まりである。


 毎年星花祭は、土日の二日間開催。

 1日目は学内でのイベントで、2日目の日曜は外部から一般客も参加する。


 今日は1日目、各クラスの出し物も、例年ならそんなに混雑はしないのだけれど……。

 今年は違う!

 高等部1年生の教室がある階は、すでに入場制限が必要そうな状態だ。


「見た!? 高等部のお姉さまたち……!」


「うん! 皆さん、顔が良い!!」


 中等部の子たち全員来てるんじゃないかという混雑の、理由がこれ。


「1年1組でーす。執事喫茶やってまーす」


「ほーっほほほ! 2組も負けてられませんわ。さあ、我がクラスの執事喫茶へ、全校生徒集めますわよ!」


「さ、3組ですぅ……猫耳メイド喫茶、やってます……。……無理。私が、こんな格好で人前とか……!(ばたん)」

 

 第65回星花祭の、伝説その1。

 高等部1年。「キセキの世代」こと67期生による、喫茶店の三国志だ!

 混雑に押されて転び掛ける、中等部の女の子を抱き止めて、にこっと笑うイケメン執事。


「気を付けて。せっかくの星花祭だもの。素敵な思い出にしなくちゃね?」


「は、はぃぃぃ……♡」


 1年2組、塩瀬あきら。執事服が似合い過ぎてるボーイッシュな子。


「わぁ……晶さんはやっぱり、こういうのすごく似合うな」


 いとこで1組所属の塩瀬日色ひいろが感心すると、


「そう? 嬉しいな。けど、日色も似合ってるよ」


「「「きゃぁぁぁぁぁァァァァァァァァッ♡」」」


 イケメン執事が並んだせいで、後輩たちから、すっごい悲鳴が上がった!

 同じ執事喫茶で対決することになった1組と2組……顔が良いのが、揃い過ぎているのである!


「うう、後輩たちの熱視線がプレッシャー……! 大丈夫だよね、私? 汗臭くないよね?」


 1組。アーチェリーで鍛えた体幹が執事の衣装に馴染む、岸野星来せら

 他にも泉見なつめ、柳橋美綺と長身の美少女が揃う1組を見て、ライバル心に燃えるのが、2組の学級委員長、御神本みかもと美香だ。


「むふー! さすが1組は綺羅星きらぼし揃いですが。わたくしたち2組も、負けませんわよ。この日の為に、最高の茶葉を用意してきましたわ!」


 一人だけドレス姿の美香。お嬢様な彼女は、喫茶店としての品質で1組に対抗するつもりだ!

 これを聞いて1組所属、小柄ながらファンクラブも存在する人気者の武村美弾みたま


「おい柳橋。対抗してわさび醤油昆布茶のパックを、出すんじゃあない」


「美味しいのに……」


 ところで、と武村美弾、御神本美香を見て、


「なんであいつ、一人だけ執事コスじゃないんだ?」


 そのもっともな疑問に、美香の義妹で1組の、沙羅が耳打ち。


「お姉さま、『わたくし、殿方の格好は似合いませんし。これで塩瀬さんたちと並ぶのは、ちょっと恥ずかしいですわ』って。可愛いところ、あるんです」


「沙羅! 聞こえてますわよ!?」


 美香、赤くなりながら、


「わたくしには執事などでなく! 高貴な女主人の役こそ相応しいと! そう思っただけですわ。おーほほほほ!」


 照れ隠しなのは明らか。

 高笑いする美香へ、塩瀬晶がにこっと、


「うん、いいと思うよ。美香さん、すごく綺麗だ」


 天然女たらしムーブだ!


「し、塩瀬さん!? そういうのは……お客様へやりなさーい!?」


 一方で、そんな光景を目撃した、晶の恋人、3組でメイド喫茶やってる川蝉弥斗みと

 うずくまって、ぷるぷるしていた。

 園芸部仲間の白石結が、心配して声を掛ける。


「どうしたの、弥斗さん!? 大丈夫?」


 恋人が他の子口説いてることへの、嫉妬でしょうか。いいえ違います。


「……晶さん、似合いすぎて。直視できない……!」


「……ああ、そう」


 執事喫茶の1組2組に対し、3組はメイド喫茶。

 猫耳カチューシャが頭の一部と化した感のある、猫山美月は、


「にゃー。にゃぁ。にゃにゃ、にゃんにゃんなーご」


「どうしちゃったのかしら、猫ちゃんは」


 結に心配される。正気に戻った弥斗に、教えられる。


「イメージトレーニングのし過ぎで、人語に戻らなくなったそうですよ。筆談は出来るので、教えてくれました」


「……ああ、そう」


 大丈夫かしら、このクラス?

 結は遠い眼をする。


「それにしても。アイドルがいるとはいえ、女子高で、メイド喫茶で執事喫茶に勝つのは、なかなか厳しいわね」


 3組に在籍、生徒会の新副会長である日塔にっとう氷舞理ひまり

 真の勝負は、一般客がやってくる明日……!と思いつつ。

 副会長としては、あまりに人が押し寄せても、困っちゃうので、頭が痛い。


「混雑と言えば……美滝さん?」


 美滝百合葉へ、おずおずと尋ねる。


「昨日、ラジオの生放送で言ってたの……本当の話?」


 ヴァイオレットも食いついた。


「そう! 言ってましたよね!! 『明日からうちの学校、文化祭なんですよ。あの、超大物芸能人も来るかも!』って!!」


 瞳をきらきらさせて、百合葉に迫る!


「超大物芸能人って……もしかして、『疾風はやて』ですか!?」


 ざわっ……。校舎中の、雰囲気が変わったといっても、過言では無い。

 皆、百合葉にそれを聞きたかった!


「どうなの、ゆりりん! 疾風はやて、来るの!?」


櫻木さくらぎくんは!? 松純マツジュンも来る!?」


「ええっと、それは……」


 金曜夜のラジオ番組で、美滝百合葉がぽろっと喋った噂。

 今年の星花祭、超大物芸能人が来るという……!

 人気番組「VS疾風はやて」等々、最近百合葉は、結成20年の男性5人組、超国民的アイドルグループ「疾風はやて」と共演が多いから。

 疾風はやてが来る!?という噂。むしろ願望。


 汗をダラダラ流し、髪を弄りながら視線を泳がす百合葉。

 顔色にさとい弥斗などは、気付く。


(『やっべー。全然違う人なんだけどなー』って顔してるー!?)


 そんな一部の心配をよそに、百合葉は、


「ま、まあ? ある意味? 『疾風』の一人と言っても、いいかもねー」


 感激の悲鳴に、校舎が揺れた。


「で、でもでも! ほら、きっとお忍びだから!? 探さないで! 探さないでねー!?」


 ……同時刻。百合葉の言う「超大物芸能人」は。

 星花女子の生徒である、娘へと電話を掛けていた。


「おう、紀香。明日は父ちゃんも行くからな。わははははは!」


 元、プロ野球のスター選手。タレントの下村義紀だ!

 高等部2年、ソフト部の下村紀香の父親で、百合葉とも仲良し。

 「疾風はやて」ではない。

 しかし……。


 娘への電話を切って、しばらくすると、着信が入る。


「お……? 櫻木くんからじゃないか」

 

 本物の「疾風」メンバー。ニュースキャスターも務める櫻木くんからだ。

 この義紀氏、冗談で「6人目の『疾風はやて』だな」とかメンバーに言われるくらい、仲が良いのだ!


「え? 明日、星花の近くで収録がある? 5人全員? ついでに文化祭を見たい? おう、いいぞいいぞ。うちの娘にも、会ってってくれや!」


 第65回、星花祭の伝説その2。

 あの、超大物芸能人がお忍びで……!?

 「疾風はやて」の目撃情報多発。


※ ※ ※


【後書き】

今回の初登場ゲスト

君藤くんとう芽依めい・星花女子、高等部の新生徒会長。

斉藤なめたけ様作・「冬中花想」に登場(「小説家になろう」にて連載中)


・武村美弾みたま

桜ノ夜月様作・「ハレーションに弾丸を」に登場(「小説家になろう」にて連載中)


・下村義紀よしのり

藤田大腸様作・「Get One Chance!!」に登場。主人公、紀香の父。(「小説家になろう」にて本編完結)

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