第29話

 りんりん学校、2日目の朝。

 大広間でクラス別に集まって、朝食のお時間。


「まあ、いいですわね、海の幸」


 駿河湾で採れた新鮮な魚介を中心にした、あっさりめの和食だ。

 朝食なので、ボリュームは控えだけど、その分一皿一皿に、和の旨味がたっぷり。

 貝の出汁だしが効いたお味噌汁をすすっていると、


「女王ちゃん、昨夜ゆうべは部屋に戻んなかったじゃん。もしかしてさ」


 同じ寝室予定だった、下村紀香がニマニマしつつ聞いてくる。


火蔵かぐらと、お楽しみだったかー?」


 むせた。


「ち、違いますっ。いえ、火蔵さんとも一緒でしたけど。彼女だけでなく、いっぱいの人とですね……」


「い、いっぱい!? み、乱れてんなー」


「えっちなコトはしてません!?」


 注目を浴びてしまい、2人で赤くなる。

 静流は小声で、紀香へ説明。


「漫研のエヴァ先輩の、原稿の手伝いを頼まれましたの。それで今朝まで掛かって」


「なーんだ」


 納豆をぐるぐる掻き混ぜながら、紀香は考え事の様子。

 何か、静流に聞きたいことがある感じ。

 いつになく歯切れの悪い友人に、静流の方からたずねてみると、


「いや、昨夜ゆうべの内にさ、話を聞いときたいと思ってたんだよな。あたし、星花に入ったの高等部からだし、去年はよく分からなかったからさ」


「らしくないですね。はっきりしてください。わたくしに何を聞きたいと?」


「……じゃあ、聞くぜ」


 意を決した様子の紀香。

 お茶を飲む静流へ向き直って、


「今夜の肝試しさ。カップルがエッチするイベントだって、本当か?」


 今度こそ、静流はお茶を噴き出した。


 りんりん学校、2日目の夜の伝統行事である肝試し。

 一見何の変哲もない、生徒会主催のイベントだが……星花に数年いる生徒なら、みんな知っている、非公式の呼び名がある。

 題して「悲鳴と嬌声の夜」。

 カップルたちがコースを外れ……草むらに消えて……その後、朝まで見た者はいないという。

 星花が天寿の経営になるより、ずっと前。

 何十年も前から、暗黙の了解で続くと噂される、りんりん学校、影のメインイベントである。

 教師陣も星花のOGが多いせいで、黙認されているとか、いないとか……。


「……それを、私に聞きますか。よりによって、風紀委員の私に」


 暗に認めた静流へ、紀香は珍しくもじもじしながら、


「い、いやぁ。彼女……ワンちゃんが、何か最近、熱っぽく見つめてくるからさ。で、肝試しの噂を聞いて……」


 静流、久々に「氷の女王」の顔になって。


「却下よ、紀香。私たちは学生。えっちなコトは許しません! 今夜の肝試しは、私が徹底的に監視します」


 もともと、その為に来たのだ。

 邪悪なえっちイベントを矯正し、生徒たちに清く美しい夏を過ごしてもらう……それが、風紀委員の使命。


「ええ、『悲鳴と嬌声の夜』は今宵で最後。この雪川静流が、悪しき因習を断ち切るのですわ……!」


 決意に満ちた宣言を、別の席から、小耳に挟んだ宮子。


「……ああ、やっぱり、雪川さんはそうよね。さて、どうしたものかしら」

 

 

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