第31話 独白するタナボタ・サクシャ



ダーツが趣味だった時期がある。

真ん中のブルを狙って三本の矢を投げるというごくシンプルなゲームなのだが、これを続けているとふと、ある感覚が指先に走る。

手を離れた瞬間、この投擲がブルに入るかどうかわかるのだ。

入れば「だよね」と思い、はずれれば「だよね」と思う。

それを私は、第十四回・小説現代長編新人賞に応募した本作に感じていた。当然ながら、はずれるほうだ。


不思議なもので、それは書いている時にはおとずれない。

だけどウェブのフォームに入力し送信した瞬間、私はこの作品との縁を薄さを実感し、呆気なく本作への執着を手放した。


当初、文芸新人賞に出す気でいなかったものを、友人のすすめによって出したというふざけた理由だった。

どこぞのジャニーズかタレントオーディションか。


だがその本作が、最終候補に残ったと連絡を受けてしまった。嬉しさもあったが、半分以上は驚きだった。

傲慢を承知で申し上げれば、残り十五作に絞られた中に入るくらいのものではあったと思う。

この賞は、選考途中でも講評が出る。それほしさに応募しただけという邪な動機。

それが思わぬご褒美に化けてしまった。講談社編集部、ならびに選考委員各位には感謝しかない。

ありがとうございます。いや、本当に。


ということで、頂いた選考委員各位の講評を記載して終わりにしようと思う。

予め申し上げるが、辛辣な言葉もある。

それから委員は、五名である。

好き嫌いが割れる作品だと重々承知しているが、おもしろいものだと作者自身は大いにほくそ笑んでいる。


願ってもない。本望だ。私は万人受けする作品なんぞ書きたいなどと思わない。

罵倒か絶賛がほしいのだ。どちらであろうが誰かの心に、深く突き刺さるだろうから。


第十四回 小説現代長編新人賞候補作

浮遊するランダム・ナンバー 西条彩子



朝井まかて


「浮遊するランダム・ナンバー」、これも冒頭から既存の小説や映画の影響を感じたが、ただ一点のオリジナリティがあればと読み進めた。だが、作者のアイデアに構成や表現がついていかなかった。会話や心情描写、人間関係にまつわる描写も粗く、ゆえにどの登場人物も魅力が薄い。ただ、あらゆる齟齬を重ねても、ラストに向かう熱は感じた。その熱のままに、また挑んでください。



中島京子


「浮遊するランダム・ナンバー」

 おおがかりな設定への果敢な挑戦に好感を持ちましたが、作品としては失敗していると思いました。タイトルは「レディ・バグ」であるべきだったでしょう。そして内容も未理亜という女性科学者自身が「バグ(誤り)」であると読める展開でなければ、過去に乗り込んで父親と関係を持ち娘(自分)を授かるというエレクトラ複合的な混乱を抱えた主人公を出す意味がないように思います。小説のテーマを整理する必要があると思いました。



宮内悠介


「浮遊するランダム・ナンバー」の鍵となるのは0と1を発信する乱数発生器で、これは「意識」を検知すると1に偏るという代物。この装置を宇宙探査機に乗せ、主人公は地球外生命体の発見を目論む。はたして、遠い惑星に送りこまれた探査機が、あるとき1の羅列を返してくる。と同時に、世界中で八十万人が消失する……。ファーストコンタクトにタイムスリップ、並行宇宙と全部盛りをしながらストーリーも読ませる力業で、大きな話を読む喜びがあった。ただ、なぜ意識を検知すると乱数が偏るのかといった諸々の理屈面は、ほら話でいいので、もう一歩それらしい理由を示してほしかったところで、その点がやや悔やまれた。



薬丸 岳


「浮遊するランダム・ナンバー」スケールの大きな、作者の熱量を感じるタイムトラベルもので、終盤までぐいぐい読み進めました。ただ、過去を変えても現在に反映されないというある設定が、あまりにも都合よく感じられて、終盤まで感じていた興奮が失速してしまった。他の選考委員からも同様の意見があり、惜しい作品だと思いながら、強く推しきれませんでした。




それではここまで読んでくださった読者各位、改めてお礼を申し上げます。トンデモストーリーだという自覚はありますので、そのへんも含めて★やレビュー、コメント等いただけましたら幸いです。


2020.03.06. 西条彩子

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