06:カード払いだよ、こじきちゃん!

 今日は同学部同学年の飲み会に参加している。

 期末テスト最終日に催されたこの飲み会は解放感にあふれている。結果はどうあれ、テスト期間中の緊張感を脱ぎ捨てられたことで全員が清々しさを身にまとっている。

「いやー、今回も樫井かしいのテストはわけわかんなかったなー」

「たしかに。易しいと思える問がひとつもなかったね」

 飲み会でも相変わらずノンノと話している。

 ノンノは友達が多く、私のようなあまり積極的に他人と関わろうとしないタイプの人間にも分け隔てなく接してくれる。そこが彼女の魅力だと思う。

「モナコちゃん、小動物っぽくて癒される~」

「えへへ~、どんどん癒しちゃうよ~」

 モナちゃんは女子グループにもてあそばれている。彼女はマスコットキャラ的な立ち位置なので、同性からのスキンシップが激しい。

「あっ! 俺もモナコちゃんなでなでしたい!!」

「えへへ~、なでなでしろ~」

 異性に対してもスキンシップを許すあたり、モナちゃんのあざとさが際立つ。

 モナちゃんの恋愛事情とかは知らないし、知るのが怖いから詳しくは聞かないようにしている。

「モナはみんなからモテるなぁ。ある意味はあれは才能だ」

「そうだね。かわいいからね。とくに男子はほっとかないよ」

「みーの浮いた話はないのか?」

「えっ」

 ノンノがニヤニヤしながらこっちを見ている。そんな顔されてもなぁ……。

「ないよ」

「ほんとかー?」

「ほんとだよ」

「ふーん」

 やれやれ。サバサバした感じのノンノもやはり女の子だ。恋バナってやつが好きなのだろう。

 残念ながら今のところ提供できるような身の上話はない。

「みー、メガネ外してみて」

「え? いいけど……」

 お望み通りメガネを外した。

「みんなー! 三波みなみがメガネ外したぞー!!」

「ちょっ!?」

 みんなが私に視線を集中させた。恥ずかしすぎる。顔が熱い。

「あっはっはー、かわいいーかわいいー!」

 ノンノが私の頭をワシャワシャと撫でた。

「バカノンノっ!!」

 注目されることに慣れていない私にとってこれはかなりこたえた。


 そろそろお開きの時間ということで幹事が集金を始める。

「まだ怒ってんのかよー」

「うるさい」

 ノンノめ、いつか仕返ししてやる。

「ごめんごめん。さっ、帰ろうか」

「……うん」

 帰りにレジの前に立つモナちゃんを発見した。ちなみにモナちゃんは幹事ではない。

「では、お会計のほう108,000円になりまーす」

「カードで」

「かしこまりましたー」

 おい。なぜモナちゃんがお会計をカード払いしているのだ。

 まさか、ここでも彼女はこじきちゃんなのか……。

 念のため幹事の鈴木君に確認してみることにした。

「あの、鈴木すずき君」

「あっ、三波さん! メガネありバージョン!!」

「あはは……。えーと、モナちゃんがお会計してたみたいだけど、幹事って鈴木君だよね?」

「そうだよ! モナコちゃんが払っておくって言うからお願いしたんだ。ほら、こいつ潰れちゃって見てなきゃだからさ」

 鈴木君は酔いつぶれた野木のぎ君に肩を貸している。

 なるほど、事情はわかった。しかし、何か思惑を感じざるを得ない。なぜなら彼女はこじきちゃんなのだから。


 後日、こじきちゃんの持っているカードはポイント還元率が高いことで有名な某クレジットカードだったことが判明した。

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