第2-2話@春とは出会いの季節です

 翌日、僕が部屋で勉強していると、南田が部屋の外から声をかけてきたので

僕は一回外で話すことにした。

 どうやら南田は僕のギターが気になったそうだ。僕がギターを弾いて見せると、

誉めてくれた。そしてこう切り出した。

「一緒にバンドしない?」

「あぁ…。考えたこともなかったな。でも僕あまり歌うのは得意じゃないんだ。」

「私も。じゃぁ、学校で歌うの得意な人見つけようよ。」

「・・・」

察してほしい。その願いは打ち砕かれてしまった。

僕は「何でもできる。本当に天才肌だよね、翔君。」と中学時代の友人にたくさん言われた。

自慢じゃないことは承知のはずだ。

そんなことを言われても僕は大きな大きなコンプレックスがあった。

それは施設で暮らしているということだ。母に抱きしめてもらったりや毎日お弁当を作ってもらったりの記憶も、父に釣りや、グローブを付けて、家の前でキャッチボールをした記憶も海に連れて行ってもらえたかどうかはわからないけど、そんな記憶もない。

そんな僕はできるだけ自分のこのことについて隠していた。

 もし、南田がそのことを言ってしまうと僕はどうなるのだろう。

新しい学校での人間関係を望まなかった。


***


 高校の入学式の後、まだ慣れていないクラスで一日話した。そしてそのあと、僕は数名と友達になった。音楽の話が共通したのだ。


 その中で特に歌がとてもうまいのがいたので帰りにそいつにそれとなく話しかけてみた。

「なぁ、えぇと…」

「名前覚えてくれよ。俺は実朝だよ。」

「あぁ、ごめん。実朝さ、めっちゃ歌うまいけどバンドとか入りたいなとか思わないの?」

「あぁ、思ったことあるけど、現実的じゃないからさ。あきらめてるんだ。」

「いや、俺ギター弾けるんだけど、それだけで誘ってきたやつがいてな。」

「へぇ。てか話が早いな。もうバンドとか。」

「いや、まぁ、そいつはこの学校にもいるんだけど、それが・・・」

僕は自分の境遇を打ち明けた。


「・・・へぇ、お前も大変なんだな。よかったら家来いよ。

そのお前の彼女もつれてきていいから。」

「ちげぇよ。」

なぜ彼に僕のことを、言わなくてもいい僕の過去を言えたのだろうか、もしかして

自発的に言ったのだろうか。まさか。

僕は何かとても冷たい空間に閉ざされていたがその空間に出口が見えたような、

今日という日になった。












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