第3話@ポン酢


「南田、先行くぞ!」

「ごめん、先行っといて!」


 その日は六月の梅雨の時期だった。連日、じとじとした天気が続き

洗濯物がかなりたまっていた。しかし、今日の午前中は見事なまでに晴れていたものだから午後に雨が降ることなど考えもしなかったので傘を忘れてしまった。


 実朝の家についてから雨が降り出し、しまったと思った、が、南田が傘を持ってきてくれた。


 実朝の家に入れてもらったら、やはりこの高校に入るくらいだから相当なお金持ちかと思えばそうでもなかった。どちらかといえば小金持ちくらいの感じでお父さんは農林水産省で時々単身赴任するらしい。

今日はまさにその日だった。そして、彼のお母さんは友人と月に一度、遊びに行くらしく今日がその日だった。


「ようこそ、わが家へ。あっ、お茶入れようと思うんだけど何がいい?

紅茶?コーヒー?ロイヤルミルクティー?」

「ロイヤルミルクティー?」

「えっ、翔、わからない?じゃぁ、それにしてみようか?」

「あぁ、うん。」

僕はそれを頼むことにした。

出てきた飲み物を飲むと口の中にほんのり甘い香りが口を満たした。


「実朝、この間のバンドの件。聞きたいんだけど。」

「あぁ、もちろんやるよ。楽しみで仕方ないさ。」

「ありがとう。」

南田が続ける。

「まず、どこでどういう風に活動するかだよね。」

「路上ライブやるの?」僕が尋ねると、実朝が

「まずは道路使用許可証を申請しなきゃいけないんだ。」といった。すると南田が、

「あぁ、大変だな。それは・・・、どこで取得できるの?」尋ねた。

「多分警察署に行くんじゃないかな。」実朝が答えた。

「大変そうだね。あっ、そうだ。動画投稿サイトとかに投稿すれば?」僕が尋ねると、

「雰囲気でなくない?」実朝が言った。そして続けて言った。

「面倒だけど仕方ないよ。道路使用許可、取りに行こう。」


 一週間後、僕たちはその許可を取りに行くことにした。傘を持って。

「君たち、すごいね。高校生なのにちゃんと許可とってから路上ライブをするだなんて。大体はゲリラ的にやっちゃう人が多いんだけどね。そう、この雨みたいに。」

今日も外は雨が降っていた。


「っていうか君たちこの高校?すごい。」

「いやぁ、警察の方からそんなこと言われるだなんて。ありがとうございます。」

「ちなみに、君たちはバンド名、何にするの?」

「あっ、そういえば考えてなかった。」

「そこの椅子のところでちょっと考えておいて。まとまったら僕を呼んで。僕の名前は古谷誠。」

「ありがとうございます。心強いです。」

そうして僕らは考えた。

そして条件としては「食べ物に関係すること」「一般的で誰にでもわかるもの」「二から三文字であること」が決まった。そして最終的に「ポン酢」と決まった。


古谷さんからするとはてながたくさん浮かんだことだろう。

しかし僕は、南田は、そして実朝は満足していた。

 





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