第37話

 戻ってみると、ふたりの距離と態度からしてどうやら進展はなかったようだ。

 休憩がすんだ4人は、なにごともなかったようにゲームを再開し、結局合計4ゲーム投げ、アイコが最高の145点を得点し、男3人は散々な成績でボーリング場をあとにした。

 その後も4人でハンバーガーショップに立ち寄ったけれど、別に特別なこともなく、卒業式のあと秘密基地に集まることを約束して散開した。

「なかなか思うようにいかないもんだなァ」

 金太とふたりだけになったとき、デーモンはこぼすようにいった。

「まあ、ノッポもそれほど積極的なほうじゃないからしかたないさ」

 金太は諦めたような口振りだった。

「じゃあ、どうするんだよ。もうあいつのことはほったらかしかよ」

「そうはいってない。そうはいってないけど……。じゃあ、いっそのことオレたちがアイコにノッポの気持ちを伝えてやろうか」

「それでもいいけど、もしアイコがノッポのことを無関心だったら、振られたノッポの気持ちは取り返しがつかないほど落ち込むんじゃないか?」

「それはある」

 ふたりは自転車を押しながら相談を続けたが、なかなかいい方法を見つけることができなくて、名案が見つかったら報告し合うということで家路についた。

 空を見上げると、千切れた雲が足早に流れ、どこからか電線を切るような風の音が聞こえて来る。なにもかもすべてを凍らせるように思えた。


 今年の冬は長い。昨夜からの雪が音もなく降り続いている。朝起きてカーテンを開けると、そこは1面の白い世界となっていた。

 きょうは待ちに待った卒業式の日で、金太にとって記念となる1日なりそうだった。

 このところの金太の日々は、結構気分的に忙しいものだった。私立高校の入学手続き、これから先にある公立高校の入試、そしてきょうの卒業式など、不安と希望と喜びが胸のなかで潮の満ち干のように繰り返されていた。

 そしてその卒業式の日が来た。金太は断わったのだが、「もう子供の卒業式は見ることができないかもしれないから」と母親が譲らなかったため、結局母親と一緒に行くことになった。

 学校に近づくと、雪で白くおおわれたキャンバスに、大小の黒い影がいくつも点在しているのが見える。

 校門から校舎の入り口までと体育館への通路は、職員や在校生たちで雪掻きがなされているため、黒いアスファルトが濡れて光っているように見えた。

 金太たち卒業生はこれまで使っていた教室に入り、父兄は式場である体育館に吸い込まれるように入って行った。

 しばらくして卒業生が在校生や父兄の拍手と共に入場し、卒業証書が授与され校長の挨拶がはじまると、いつも同じ話ばかりでうんざりしている金太も、きょうばかりは神妙な顔で正面を見据えて聞いていた。だが予想に反して校長の式辞がいつもより長くなり、やはりいつものようにもぞもぞしはじめる金太だった。何度溜め息をついたかわからないが、ようやく式辞が終わったと思ったら、今度は在校生の送辞さらには卒業生の答辞と続き、卒業式は悲しいセレモニーで、その瞬間にこれまで3年間の様々な出来事が走馬灯のように思い出されるものだ、と聞かされていた金太だったが、実際に体育館のパイプ椅子に坐ってみると、涙どころか暖房のない体育館での長丁場はいくら厳粛な式だといわれても我慢できないくらい辛いものだった。

 ようやく起立して校歌斉唱をし、在校生に見送られて無事卒業式がすんだ。

 この日ばかりは誰の目をはばかることなくスマホと手にして、あちこちで記念撮影が行われている。もっぱら女子が嬌声を上げながら交代でシャッターを押している。そんなに撮らなくてもちゃんと卒業アルバムに写っているのに、と横目に見ながら母親と一緒に学校をあとにした。

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