第30話

「違うんだって。正直にいうと、あのときはちょっと好きだった。でも……」

「でも、なに?」

 デーモンは喰い下がる。

「わかったよ。全部話すよ。じつは、いまはおはるちゃんのことが好きなんだ」

「おはるちゃん?」

 デーモンは首を傾げる。

「そうか、デーモンがニューヨークから帰る前のことだから、知らないよな。ほら、前に学校の帰り道で携帯電話を拾って、その携帯電話でタイムスリップしたときに会った、神田の太物ふともの問屋の娘」

「ああ、なんか聞いたことがある。その娘のことが好きなんだ」

「そう。でももう携帯のバッテリーが切れてるから、もう会うことはできない」

 金太はおはるのことを思い出したのか、空を見ながらしみじみといった。

「ボクはその娘を見たことがないからわからないけど、金太が好きになるくらい可愛かった?」

「可愛いかどうかわかんないけど、素直で笑顔の可愛い娘だった」

「ほんと、金太のいうとおり、まず現代にはあんな娘はおらんト」

「おまえもおはるちゃんのこと好きだったのか?」

 今度はノッポに矛先が向けられる。

「ボクは、別におはるちゃんのこと嫌いじゃないけど……」

 ノッポは少し違和感のある話し方をした。

「なんか意味深な言い方だよな、そう思わないか金太」

「確かに。オレもそう思う。なあ、ノッポ、この際だから全部ぶちまけな。そうしたらすっきりするぜ」

 金太は取調室で訊問する刑事のような喋り方をする。

「……わかったよ。ばってん、これはここだけの話やからな。誰にもいわんと約束ばできるト?」

 ノッポは真剣な顔になってふたりを見る。

「誰にもいわないって約束するからさ」

「じつは……ボク、前からアイコのことを……」

「ええッ! まさか?」

 金太は未確認飛行物体を見たときのように、デーモンと見合す。

「うん。ずっと好いとったけど、金太がアイコを好いとうと思いよったけん黙っとった」

 ノッポはこれまで胸のなかにあったことを吐露したせいか、さっぱりした顔になっている。

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