第29話

「そうなのか? デーモンとこなんか金持ちだから、なんでも手に入るし、やりたいことはなんでもできるだろ?」と、金太が訊く。

「そんなことないよ。ボクなんかもう進む道が決められてて、とても脇道に反れることなんかできないんだ」

「それってどういうこと」金太が訊く。

「親からいわれてるのは、東大の医学部を出て医者になることなんだ。自分ではもっとほかにやってみたいことがあるんだけど、そんなの完全に無視されてる」

「へーえ、すごいな、デーモンは東大ば目指しとるんや」

「いや、目指してるわけじゃないけど、どうやらボクの人生設計はそう決められてるみたい。全然納得してないけどね」

「ふーん」

「その点オレの場合は親からなにもいわれてないから、自由だといえば自由だ。いまオレよりもネエちゃんが苦しんでるよ。来年大学受験なんだけど、自分としては体育会系に進みたいみたいなんだ。だけど就職のことを考えると、理工系がいいのか外国語系がいいのか悩んでるみたい」

「そっかァ。誰もみんな悩み事があるんだなァ」

 ノッポはしみじみいった。

「それはそうと、金太はアイコのことどう思ってる?」

 デーモンが笑いながらこれまでとまったく違った会話をはじめる。

「なんだよ急に変なこといい出して。別になんとも思ってないよ」

 突然の話題に愕いた金太は、びっくりした顔になっていい返した。

「そうなんだ。ボクはてっきりアイコのことが好きだと思ってた」

「残念でした。本当は別に好きな娘がい……」

 そこまでいって金太は口をつぐんだ。

「好きな娘って誰ね」

 今度はノッポが喰いついた。

「内緒だよ」

「ははーん、やっぱアイコのことが好きなんだろ?」と、デーモン。

「違うって」金太は否定したが、このままだとやはりアイコが好きであることを認めることになりそうだと思い、全部話そうとしたとき、

「そういえば、中学1年のとき、金太はアイコば好いとったことがあったト」と、ノッポ。

 ノッポの自信ある言い方に、やっぱりとうなづきながらデーモンが突っ込む。

「やっぱりな。そうだと思った。間違いなかった」

 自分でいって勝手にうなずいている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る