第25話 第3章 別れの時

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「こんな時間にどこに行くの?」

 母親の声が背中で聞こえる。

 金太はダウンジャケットを羽織ると、「すぐ戻るから」といい残して家を出た。

 金太の向かった先は、畑に立てられてある小屋だった。

 自信があるわけではなかったが、ノッポの性格からしてまず繁華街で遊んでいるということはないだろう。ぼくらのほかに仲のいい友だちがいるということを聞いたことがないので、ひょっとしたらと考えたのだ。

 小屋までは灯りというものがほとんどなく、頼りになるのは家から持って来たペン型ライトだけといっていいくらいだ。光りの届かない部分はまさに漆黒の闇であり、かろうじて空の部分だけが深い海の色に見えた。ひりひりと夜気が頬に沁み込む。

 もう少し大きな懐中電灯を持って来ればよかった、と後悔しながら闇を切り取るようにして小屋に近づいた。

 小屋の前まで来たとき、ライトの向こうに黒い塊りのようなものがあるのに気づいた。

 ライトを当てながらそっと近づいてみると、そこにあったのは、マウンテンバイクだった。もう少しそばに寄って見る。間違いなくノッポの自転車だ。

 確信した金太は、小屋の扉の前に立つ。やはりそうだ、小屋の南京錠が開けられている。

 金太はそっと扉を開けると、ライトをゆっくりと前に向けた。すると、部屋の片隅に以前ジョージのために持ち込んだ毛布を被った大きな塊りがあった。

「おい」

 金太は震えた声で呼びかける。塊りはその声に反応して身を縮めた。

「ノッポ、おまえだということはわかってるんだ」

 金太だとわかって安心したのか、ライトで照らされた毛布がずれ、ノッポのメガネが反射した。

「……」

「なんとかいったらどうだ? どうしてこんなとこに?」

 ノッポは毛布を抱えたまま、まだひと言も口を開いていない。

「どうしたんだよ、おまえらしくないじゃないか」

 金太はライトを少しずらしてノッポのそばに腰を降ろした。ノッポはがたがたと震えている。

「ノッポ、とりあえずここから出て、オレの家に行こう。こんなとこにいたら間違いなく風邪をひいてしまう」

 金太は手を伸ばし、寒さで震えるノッポの腕を掴んだ。ゆっくりと立ち上がった瞬間、小屋の床にぱらぱらとなにかが落ちた。その音に気づいた金太が床にライトを向けると、

 いくつかの白い物が落ちていた。使い捨てカイロだった。ということは、ノッポはここに来ることを前提で家を出て来たに違いない。金太は、これはなにか理由があるはずだ、友だちとして相談に乗らないわけにはいかないと考えた。

 

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