第23話

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 さあ、受験に備え本腰を入れて勉強しなければいけない。あと3日もすれば新学期がはじまる。

 みんなと別れて家に帰った金太は、真面目な顔で机に向かった。ところが、脳裏にノッポの顔がちらついて勉強に集中することができない。別に福岡に行くことが決まったわけじゃないけれど、胸にぽっかりと穴が開いたようで、すでにノッポが近くにいないように思えてならなかった。

 ノッポが転校して来た2年半前のことが鮮明に蘇って来る。あの頃は学校でいじめられて、デリケートなノッポは登校拒否をしかけた。それを救ったのは金太だった。それが切っ掛けとなってふたりは親友になった経緯があるのだが、出会いがあれば別れがあるということを改めて身に感じるのだった。

 金太はどうしてもいまノッポの顔が見たくなって、LINEのビデオ通話を開いた。

《どげんしたト?》

《ごめん、どうもしないんだけど、LINE触ってたら間違えてノッポにかかっちゃった》

《そう》

《ああ、きょうあんまりゆっくり話せなかったから、また今度話さないか?》

《よかよ。これからいろんなことで忙しいと思うけど、いつでもよかけん、連絡ばして》

 金太は、ノッポと話すことができて少し気持ちが落ち着いた。

 ひと晩よく眠った金太は、あの予備校のニュースに刺激を受けてその日も次の日もほとんど一日中机に向かって受験勉強に勤しんだ。

 ―――

 新学期がはじまり、久しぶりにクラスメートの顔を見る。だが、そのひとりひとりの顔が、2学期とはどこかが違っている。ところがそれが日を増すごとに顕著に変化していったのだ。

 金太にはこのクラスに2、3人の仲のいい友だちがいる。これまで約1年の間、遠足や社会見学、運動会に文化祭など様々な学校行事のたびに一緒に行動して来た。

 その仲のよかったと思っていた連中も、これまでなんでも話していたのに、ここのところ無駄話をしなくなってしまった。金太がいくら話しかけようとしても、それに乗ってくることがないのだ。

 例えば、どうしてもこの時期になると、推薦入学でない限りどうしても受験校の話になる。別に他人のことを詮索したくて訊いているのじゃないのに、金太がその話題を持ち出すと、急に口をつぐんだり、その場から離れて行く者もいる。

 何度もそれが繰り返されると、金太は少し空しくなった。これまで笑ったり慰めあったり気持ちをひとつにして来たはずなのに、受験というテストの延長でしかない慣習のために人としての繋がりさえ劣化させ、ついには宿敵にまでされてしまう。

(友だちってなんなんだろう?)

 金太は胸のなかでなんども繰り返した。

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