第15話

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 金太は、母親と一緒にいちばん近いショップに向かった。姉の増美も一緒について来た。それには理由があって、金太はもちろんだが、母親もスマホについてまったくの白紙状態だったから、使い慣れてる増美の助言が必要だった。

 金太はずいぶんと迷ったが、ブラックフェイスの機種を択んだ。父親はシルバーで姉はピンクなので、違う色でいちばん格好よかったのがブラックだった。

 早速家に帰って梱包を開き、まず最初に姉の携帯番号を登録すると、すぐに電話をかけてみる。

「おお、やった、かかった」金太は嬉しそうな顔でいう。

「あったりまえじゃないの、バカじゃない」

 増美はようやく弟がスマホを持つようになったという嬉しさと、目の前にある新しいスマホに嫉妬するという気持ちが綯い交ぜになった。

 金太はその後も思いついた電話番号を片っ端から登録した。今度は増美とLINEの練習をはじめるのだった。

 昼食をすませた金太は、自分の部屋に入ると、ノッポやアイコやネズミの電話番号を登録したあと、それぞれにスマホを持つようになった報告と、電話番号の通知を兼ねてみんなに電話をかけた。

 そのあと金太のとった行動は、スマホを手にして自転車に跨ると、ネズミ、アイコ、ノッポの順にそれぞれの家まで行き、新品のスマホを自慢すると同時にLINE友だちの登録をしたのだ。

「よかったな、金太。これから連絡が取りやすうなるけん、いっぱい話ができるト」

 久しぶりに顔を見たノッポは顔を綻ばせながらいった。

 ノッポは、学校では気をつけているのだが、金太たちの前では遠慮なく博多弁で話す。

「うん。オレもやっとみんなとスマホの話ができるよ。これまではチンプンカンプンだったからな。オレだってみんなと同じように早くスマホを持ちたかった。でも正直いって、オレ学校の勉強ができなかったから、あんまり親にいえなかったんだ」

 金太は、正直に自分の気持ちを親友のノッポに打ち明けた。

「でもいいじゃないか、こうして最新モデルのスマホば持てるようになったんやけん。ボクらのスマホ見てみ。機種ば古いし、ボディもこんなに傷んどる」

 ノッポは、ズボンのポケットからスマホを取り出して金太に見せた。

 確かにボディの艶は失われ、表面に張られたフィルムも隅のほうが剥がれかかっていた。

「うん」

 ノッポのいうとおりだったが、金太は正直にいうのを控えた。自分のスマホを自慢しているように思われるのが嫌だったからだ。


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