第14話

 ふたりが半分ほどカップ麺を食べた頃、

「ねえ、金太、もうじきクリスマスだけど、今年のプレゼントなんだろね?」

 躰が充分暖まったのと、お腹がいっぱいになったせいか、増美は笑顔になって訊く。

「さあ? そんなの考えたこともない。どうせ、クリスマスケーキかなんかでチャンチャンってとこだろ」

 金太はそんなことに興味もなかったし、期待も持たなかった。

 

 ところがクリスマスイブの夜、金太が愕くようなプレゼントが届いたのだ。

 家族でチキンの照り焼きと海老フライで夕食をすませると、クリスマスケーキがテーブルの真ん中に置かれた。ここまでは毎年のことだから別に愕くことはない。

 ところがそのすぐあと、父親が金太にA4ほどの大きさの封筒を渡した。わけがわからないといった顔で金太は受け取る。

「なかを見てみな」

 父親が笑顔を浮かべて金太にいった。

 父親にいわれるまま封筒のなかを覗くと、カラフルなパンフレットが入っているのが見えた。そのパンフレットを取り出すと、それはこれまでどうしても欲しかったスマホのカタログだった。

「これって……?」

「そうだよ。おまえが欲しがってたスマホだ。お母さんと相談して決めた」

「ほんと? ほんとに?」

 金太はまだ信じられなかった。これまで何度母親にねだったかしれない。だがそのたびに、「高校生になったら」と却下され続けられてきたからだ。

「ああ、ほんとよ」母親も笑っていった。

「金太、よかったね。やっとスマホが持てて」増美も嬉しそうだった。

「これって、ドッキリじゃないよね? もしドッキリだったらオレ家出しちゃうから」

「バカじゃないの」

 増美はいい終えるなりケーキを口に放り込んだ。

「でも本体は契約をすまさないと手に入らないから、明日にでもお母さんとショップに行ってきたらいい。でも滅茶苦茶な使い方はしないと約束しなさい。いくらプレゼントだといったって先々出費の発生することだからな」

 父親はさっきとは違った厳しい表情になって話した。

「わかってる。必要以上には絶対使わないから」

 金太は真面目な顔になって、父親を正面に見て約束した。

 これまで金太はみんなが持ってる携帯電話やスマホがどれだけ欲しかったことか。

 そのたびに母親に頼むのだったが、何度頼んでも無駄だった。その理由は、欲しいといってなんでも与えるというのは親として反対だった。それと母親ともなれば決まった収入のなかで家計をやり繰りしなきゃならない。家族4人全員が携帯電話やスマホを契約したとすれば、当然毎月の通信費が嵩む。金太にばかり不自由させるわけにはいかないと思った母親も、自らスマホを持たないように心がけていた。大人の自分さえスマホを持たなくても、大丈夫だというところを金太に見せる必要があった。

 だが、近頃では猫も杓子も当たり前のようにスマホを携帯する風潮になったことと、格安スマホが出現したこともあってようやく決心をした。

 なかでもいちばんの理由は、金太が高校受験する上において、少しでも有効な情報を入手する手段だと思った。せっかくやる気になった金太だけに、親としてはできる範囲の協力を惜しまないということで決めた。

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