第12話

 さあ、ジョージをアメリカに帰すにはどうしたらいいのだろう。

 1週間かけて5人は知恵を絞った。本来はデーモンが切っ掛けとなった事件なのだが、リーダー格の金太は、みんなが受験勉強の時間を裂いてジョージの帰国を考えてくれていると思うと、心から申し訳なく思った。

 いちばん先に帰国案を提唱したのはいちばん年下のネズミだった。それは、ダンボールに入れて航空便で送り、アメリカの空港に着いたら箱から逃げ出せばいいといった方法だった。

 その後も、来たときと同じように誰かのスーツケースに潜り込んで帰国する方法、さらには開き直ってマスコミに公開する方法など長い時間かけてみんなで相談した。しかし、簡単には名案は見つからなかった。

 早くしないと冬になればジョージは生活できなくなってしまう。それと、どっちみち帰るのなら、クリスマスまでには帰してやりたいというのが全員の思いだった。

 金太はジョージを無事に帰国させてやりたい一心で、勉強も手につくことがなく、そのことばかりを考えていた。

 そしてある日、みんなが集合したとき、金太が名案が見つかったことを発表した。

「学校の帰りにカラスを見て思いついた」と胸を張って金太はいった。

 みんなはどういうことかまったくわからなくて、お互いの顔を見合わせるばかりだった。

「カラス? カラスってなんね」早く話せといわんばかりに語気を強める。

「この前カラスが飛んでるのを見て、ふと思いついたんだけど、ジョージを飛ばして搬んだらいいんじゃないだろうか?」

「それは無理だよ、だってジョージは飛べないじゃん」

 これまで金太をリスペクトしてきたネズミが残念そうな顔でいう。

「そんなことわかってるさ」

 そういった金太は、自分の頭のなかにある計画をみんなに話した。

 金太の構想は、ジョージを最近流行りのドローンで空中搬送する方法だった。いくらドローンで飛ばせたとしても、もちろんアメリカまで飛ぶことはできない。そこで、ドローンに乗せたジョージを港に接岸してあるアメリカ行きの貨物船まで飛ばし、貨物船に搬んでもらうという筋書きだ。

 だがそこにはいくつかの問題をクリアしなければならない。まず、肝心なドローンが手元にない。次に、仮にあったとしても積載荷重の問題が残る。3つめは上手いことアメリカ行きの貨物船があるかどうかだ。

 金太以外の一致した意見は、その方法以外に思い浮かばないから、みんなでその計画に向かってアクションを起こそうということだった。

 その場で各自に役割が割り当てられた。肝心のドローンはデーモンがジイちゃんにねだって買ってもらうことで決まり。ノッポは外国船の出航スケジュール、アイコはドローンとジョージを繋ぐハーネス、つまり固定ベルトを拵える。残ったネズミは航海中の食料を準備することとなった。


 好都合なことに、近々ロサンゼルスに向けて出航する貨物船があることがわかった。そうなるとこの作戦の肝ともいうべきドローンだが、ぎりぎり積載荷重をクリアできるドローンを、デーモンはジイちゃんにねだって手に入れることができた。だが勝手に飛ばすと通報される危険性があるので、みんなと一緒に自分の家の庭で操縦訓練を行った。

 いきなりジョージを乗せて訓練するわけにいかないから、500ミリのペットボトルをジョージに見立て、それぞれがリモコンのレバーを動かした。

 いよいよ決行の日が来た。冬は早く日が沈む。それを利用して、金太とデーモンは監視カメラを避けるようにしてドローンを操縦し、なんとかジョージを貨物船に乗せることに成功した。

 ロサンゼルスの港に到着するには、順調にいって10日ほどかかる。その日以降毎日テレビや新聞でジョージに関するニュースを探すのだが、一向にその気配がない。

 金太たちの学校では期末テストがはじまるというのに、気になってまともに試験勉強に集中することができない。

 ところがある日、金太がリビングで家族揃ってお茶を飲んでいたとき、たまたま観ていたテレビが、突然奇妙なニュースを流しはじめた。その画面にはジョージがミズーリのおばさんの手のひらに乗ってポーズを取っている姿が映り込んでいた。

『21世紀の奇跡。 小さなコロンブス』

 ニュースのタイトルにはそう書かれてあった。

                (第4話「小さな密航者」に収録)  


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