第47話 付き合っちゃった

 世の中終わらないものはない。諸行無常なんて言葉があるくらいだしな。


 何が言いたいかというと、夏休みが終わった。


 そして、今は午前の授業が終わり、昼食タイム。


 以前は一人か、黒野と二人で食べていたのだが、この二学期からはメンツに変化があった。


「はい。凌君。あーん」


「こ、こんなところでは嫌だよ。何かみんなに見せつけてるみたいだし」


「じゃあ、どこだったらいいの?」


「お、屋上とか?」


「うちの学校屋上行けないよ。そんなマンガじゃないんだから」


「わ、わかってるよ。ちょっと言ってみただけだ」


「嘘だね。凌君嘘つくとき鼻ぴくぴくするもん」


「え?本当かそれっ?」


「うっそー(笑)引っかかったねー」


「~~~~~~~ッッッ!!!!?!!!?」


 くっそ。またからかわれたよ。ほんと飽きないな紗希は。


 紗希は満足そうな笑みを浮かべて、タコさんウインナーを小さなお口で頬張る。


 すると、諦めてないのか、箸で玉子焼きを掴み、再び僕に「あーん」と寄せてきた。


「だ、だから学校ではやらないって」


 僕たちが付き合っているとクラスメートは知っていても、やはり男子からの嫉妬の視線は痛い。


 アルソックのコマーシャルの吉田沙保里のレーザーくらい痛い。食らったことないけど。


「もー。凌君は強情だなー」


 と言って、紗希はむっと頬をリスみたいに膨らませた。飼いたい。


 飼いたいはやばいか。危険思想入ったわ。


 僕が紗希の可愛さにたじろいでいると、「えいっ」って言って箸で掴んでいる玉子焼きを僕の唇に押し付けてきた。


 いや、口に入ってないし。


 その玉子焼きをどうするのかと窺っていると、あろうことか、そのまま自分の口へ持っていったのだ。


 か、か、か、か…………


「間接キスいただいちゃったっ」


「お、お、お、おまっ」


「凌君が悪いんだよ……?」


 十中八九赤くなっているであろう僕の顔を心底楽しそうにしながら紗希は目を細める。


 そんなバカップルみたいなやり取りをしていると、横から悲痛な叫びが聞こえてきた。


「あまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 そんな満点青空レストランの宮川大輔みたく大声を発したのは、何を隠そう黒野だった。本家は「うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」だけどな。最近は観てないからどうなってるか知らんけど。


 というか黒野と千花さんはずっと僕らの隣にいました。恥ずかしいところをお見せしてしまった。


「いや、確かにお前ら二人が昼飯食べてるところにお邪魔したのは俺らだけどさー」


「俺らなんて一緒にしないでくれる。私は止めたじゃない」


「でも、結局来ちゃってるじゃーん。ブックオフなのに本ねえじゃーん」


「二度と本読めない体にされたくなかったら今すぐ黙って……ね?」


「承知いたしました千花様」


 しっかり調教されてるじゃねえか、黒野の奴。


 ったく。これじゃあ落ち着いて飯なんか食えないな。


 そう思っていると、教室のドアがガラガラガラっと勢いよく開いて、衣鳩先輩が入ってきた。


「紗希さーん。芦谷くーん。前の花火大会どうだったー?」


 ぎゃああああああああ。そんなこと男子の嫉妬で殺伐とした教室で言うなって。


 男子どもの殺気メーターがグンと上昇した。これは吉田沙保里が本気で物理的に絞めにくるレベル。あ、いや、それは言い過ぎか。吉田沙保里は最強だもんな。学校中の男子かき集めても勝てないと思う。コワイ……


 にしても、相変わらずたわわに育っておりますね。見たくなくても見えてしま……いででで!


 ちょっと紗希さん。机の下で僕の足踏むのやめてくれません。


「おかげさまですごーく仲良くさせてもらいました。ね?凌君?ね?」


「あ、ああ。紗希が一番す…………一番だ」


「ふえぇ。あ、ありが……とぅ……」


「「「「リア充爆発しろ」」」」


 今、教室中から不吉なワードが聞こえた気がするけど気のせいだよな?鈍感系主人公の難聴じゃないもんな?


 紗希を恋人として学校で振る舞うのにまだ慣れていないので、ちょっとしたことでも照れてしまう。早く何とかしないと。


 で、さっきから黒野は何を呟いているんだ?


「足踏まれてた。いいな。足踏まれてた。いいな。足踏まれてた。いいな」


 お前のキャラ容量にドМはもう入らねえよ。情報過多だよ。


「おい。黒野しっかりしろ」


「ふえぇ」


 いや、黒野のふえぇに価値はねえよ。むしろ金払え。


 ビクッと黒野が気を取り直し、バッと立ち上がると、バサッと暗記カードが落ちた。


 何の暗記カードだ?


 それを紗希が拾い上げる前に、黒野はもう言い訳を始めていた。


 というか、自首だな。罪の告白だな。


「こ、これはさー。女の子に一度は言って欲しいセリフ集ーみたいなー?男なら憧れるあんなことやこんなことが記されててー。変態的なことも書いてあったりーなかったりーみたいなああああああああぁ……ああああん……あ……」


 案の定、千花さんに思いっきり足を踏みつけられていた。それも、紗希の数倍の力で。衣鳩先輩は蔑んだ目で黒野を見下している。


 良かったな。黒野。念願の足踏みだぞ。もう今日は喋るな。


 僕が呆れた眼差しを送っていると、紗希が暗記カードをぱらっとめくって、「あわわ」っとえっちなことは何も知らなかった無垢な女の子みたいに顔を赤くしながら、こう独り言ちた。


「えーっと。ご主人様、私のこともっといじめてくだ……」


「あああああああ!紗希はそれ言わなくていいからああああああああああ!!!」



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【読者の皆様へ】


一章はこれで完結ですが、二章が始まります。しばらく間が空いてしまいますが。


新作も出します。できれば一ヶ月以内に。


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ここまでお読みいただきありがとうございました。

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未来が見えるヒロインによると、どうやら僕たちは付き合うことになるようです。 下蒼銀杏 @tasinasasahi5

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