第11話

 迷宮から出てきた三人を見て、隊長と眼帯の兵隊は狼狽ろうばい緊張きんちょうあらわにする。血塗ちまみれの姿で戻ってきたガンドウとフィルを見て、先程地下にとしわかの兵隊が慌てて駆け寄る。

「どうした! 血塗れではないか! 中で何があった! 怪我はないか!」

「大きな大きな鼠がいやしてね。これはみいんな返り血ですんでご心配は要りやせん。ねえ隊長さん、四匹とも始末してきたよ。お穴の番所の隊長が追剥ハイウェイマンとグルたあ穏やかじゃねえ。あんたが飼ってたのかあんたが飼われてたのかは知らねえが、子供と素浪人とあなどってめにかかったが運の尽きよ。おい、そこの若えの、あんたの隊長とお仲間は追剥の片棒担ぐ小悪党よ。お穴の中に追剥共をかくまってやがった…その顔は心当たりのある顔だね。最早言い逃れは出来ぬ故、潔く腹をくくるがいいよ」

 突然戻ってきた血塗れの男にまくし立てられ、若い兵隊は後ずさる。

「た、た、隊長、こ、こ、これは一体」

「知らん。大方追剥同士の仲間割れだろう。自分の仕業を兵隊になすり付けようとするとはとんでもない奴ら、捕まえろ、抵抗するなら殺しても構わん!」

 眼帯が左脇から殺到するのを目の脇でとらえる。さやぐるみ腰から抜いた刀の柄を眼帯の顔面にぶつけると、前歯をへし折られた眼帯が横ざまにどうと倒れる。

「べら棒め、悪事の露見ろけんするや開き直って悪あがきするなどそれでも兵隊かね、恥を知りやがれ。お前のようなは役人に突き出すだけじゃあき足らねえ」

 隊長の右手が剣に伸びる、が、あっという間に距離を詰めたガンドウの右手につかを押さえられ剣が抜けない。押し返そうと前に一歩出るところで右の手首をめられたまま前に放り投げられた隊長の顔面に、ヤバスの杖のフルスイングがめり込む。鼻の骨を砕かれ膝をつく隊長の頭をガンドウが後ろから蹴り飛ばし踏み付ける。二度、三度と続けて踏み付けるガンドウをフィルが制する。

「死んでしまいますよ!」

「死んでも構わねえがねえ」

 隊長の顔面は血と涙でもうぐちゃぐちゃ、うのていで若い兵隊の方に逃げる。

「加勢呼べ加勢を、こいつら無茶苦茶だ、兵隊に手を挙げたらどうなるか教えてやれ」

やかましいやい、お前、此方こっちを向きな、これが目に入らねえか」

 ガンドウはもろ肌を威勢よく脱ぎ、右肩を前に張り出し大音声だいおんじょうで大見得を切る。その右肩に現れる見紛みまごう事なき義王の紋章、三本さんぼんくさび。「>>>」模様の入れ墨を見て、ヤバス以外の全員が度肝を抜かれて息を呑む。

おいらのことを知らねえかえ、知らずば言って聞かせやしょう。今ではお穴も大人しいが、四十年前の昔にゃあ世の中皆上を下への大騒ぎ。そこを名君義王さまより、たってと頼まれ腕っこき集めて最下層そこまで潜った星団せいだん。頭が抜けたその後にゃ武星団-1(レスワン)名乗ったが、何を隠そうその頭、レスワンたあおいらのことよ」

 げえっと肝を奪われる兵隊たち、それとフィル。もう呆気にとられて口をパクパクさせるのみ。

「自分で言うのもおこがましいが、手柄の証に恐れ多くも義王さまの紋章をいただいたのよ。お前らのような不届き者には調査おしらべ裁判おしらす執行おしおき、一切勝手のお墨付きを頂いてる。追剥共のように今ここで首刎ね飛ばしても良いがどうするね、ええどうするね」

 答えを聞くまでもなく隊長は最早もはや戦意喪失。若い兵隊に呼ばれた役人によって一言もなく引っ立てられてゆく。

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