最終話 お幸せに

 披露宴も終宴が近くなり、新郎新婦による両親への花束贈呈の項になった。しかし両親が足りないのだ。まともなのは春日井家だけである。俺は花嫁の父ではあるが、もう一人の花嫁の相手、彩夏の母は旭川、という状況だった。


 司会のお姉さんの歯切れのいい言葉で、

「ここで新郎新婦によるご両親に対しての感謝を込めて花束贈呈の式事で御座います」

「右手前方には、春日井家御両親様、二階堂忠史様、北島武志様、白井由梨様がお揃いでいらっしゃいます」


 やはり参列者のほとんどが不可解そうにしていた。


 ――司会のお姉さん頑張れ――




* * * * * 




 俺は先月、仕事で上京すると彩夏には嘘を言って三日間家を空けた。行った先は東京と大阪である。そこでそれぞれ一人ずつ面会して結婚式への出席をお願いした。



 最初に会った男性は、史絵の父親二階堂忠史だった。引っ越しの時、紗枝の荷物の中にあった手紙の差出人だった。どっかで聞いた事のある名前だと思い、ネットで調べたら、外務省の幹部の役職で、国会中継で、たまに大臣の代わりに答弁する人物の名前と一致した。彼のSNSを見つけ、ダイレクトメッセージを送ってアポを取って上京して会った。五十嵐紗枝の名前をメッセージの中に入れたら、アポは取れた。紗枝の手紙を持って忠史に会いに行った。その手紙の内容はほとんどの文が、忠史の紗枝に対してのお詫びばっかりが書いてあった。


 忠史は、周りの目があるからと言って、一流ホテルの部屋番号を指定してきた。現在の彼には、勿論家庭がありました。

 俺は、自分が紗枝と史絵に出会ってから紗枝が事故で他界した迄のこと、来月史絵が結婚式を挙げる事までの経緯を話した。



 忠史と紗枝の出会いは、二十代の忠史が北海道勤務の時で、やはり出会いは病院だったそうだ。盲腸炎でたった一泊二日の入院なのに恋に発展したそうだ。でも転勤族の宿命で、出会いから一年後に南米の大使館勤務の辞令が降りたそうだ。その時に紗枝にプロポーズをして一緒に海外へ行って欲しいと告げたそうだ。紗枝は忠史を愛していたが、海外暮らしに二の足を踏んで悩んでいた時、忠史の親から紗枝が片親の子、そして家柄が良くないという理由だけで大反対されてプロポーズを撤回して札幌を去ったそうだ。そして、紗枝が妊娠していたことは告げられていなかったそうだ。


 俺は紗枝と史絵のありったけの写真をアルバムにして持参した。そしてそれを見せて、

「あなたの娘の史絵は、嫁に行くまで成長ました」

「史絵の名前は、紗枝があなたの名前から一字貰ったのだと思います」

「名乗らなくて構いません! 只、一目あの娘の晴れ姿を見て頂きたいです」 

 そう告げました。

 

 そして忠史は、俺から真相を聞かされて、大粒の涙を流しながら、沢山の写真を食い入るように見ていました。

それから、当時の自分の取った行動を懺悔していました。



 次の日の朝、俺は新幹線で大阪へ向かった。彩夏の母、白井由梨に会うためである。由梨にも、SNSのダイレクトメールで連絡して、その中に彩夏の名前を書きました。そしてアポが取れました。由梨からは、自分の経営する外食チェーン店で梅田店を指定されました。店に着くと奥の部屋に通された。やはり、上品で気高そうな婦人がそこに居た。



 俺は、もう籍は入っているが、彩夏と来月結婚式を挙げる事を最初に伝えた。そして小野寺幹士さんが事故で他界している事、智恵さんが彩夏を、生れてから今までずっと育ててきた事等を、二階堂の時と同じく一冊の彩夏のアルバムを見せながら順に聞かせた。そして、幹士さんの手紙で彩夏は智恵さんの子で無いことも知っているが、本当の親子以上に絆が強い事も付け加えた。

 やはり、由梨さんは、彩夏がお腹を痛めた娘なんだと思う。対面しいるほとんど時間、涙を流して聞いていた。俺の目を見ずに、視線の先はやはりアルバムだった。


 そして最後にポツリと言った

「我が子を捨てた母を、彩夏は許してくれないよね」


「それは私にもわからないです」

「只、生んでくれた事には感謝していると思います」

 続けて俺は、

「これからは彩夏の事は私に任せて下さい」

「由梨さんも色々事情が有るとは思いますが、あの娘の晴れ姿を見に来て頂けないでしょうか」


 そう言うのがやっとだった。


 二人には、持参したアルバムと式の招待状を置いて帰道に着いた。果たして来てくれるかどうか、その時はわからなかった。






 彩夏はお父さんからの手紙で自分の誕生のいきさつは知っているので特に何も言ってはいなかったが、史絵には一応言っておいた。


 紗枝が看護師新人時代に入院した男と親密になって、結婚を意識していた時、その男の海外赴任が決まったそうだ。その時に男から結婚しようと言われたそうだが、紗枝がシングルマザーの子と言う事で向こうの家に反対されたのと、官僚一族の嫁にはふさわしくないと自分から身を引いて自然消滅したそうだ。お腹に子供がいることは彼には言わないで一人で史絵を生んで育てたそうだ。その事は、紗枝の昔の看護師仲間から聞いたと伝えてある。




 * * * * * 



 司会のお姉さんの出番だ

「新婦史絵様のお父様は、もう一人の新郎を兼ねていまして、皆様には恐縮ではございますが、北島様の古い友人で史絵様にもゆかりのある二階堂忠史様に北島様の代役を務めて頂きたいと思います。あと、もう一人の代役として旭川でご覧になっている新婦彩夏様のお母さまの古くからの友人でいらして、彩夏様の名付け親でも有られます白井由梨様にもお願いしております。北島様にもご両親に置かれましては、すでに他界されておりまして、新郎北島様の伯父様で有られます北島武志様に代理をお願いしています。春日井様ご両親ご夫妻と共々よろしくお願い致します」



 そのアナウンスの後、彩夏はその名前に気が付いて表情が変わった様にも見えた。


「新郎新婦の皆さま。前方雛壇横迄お進み願います」



 整列した五人の前に花束を持った四人、恒例の司会のお姉さんによるお涙ちょうだいの言葉は入れなかった。音楽と照明だけでその儀式を執り行った。




 俺は右となりの彩夏に「彩夏のお母さんだよ」左となりの史絵に「史絵のお父さんだよ」と首を左右に振って二人の耳元にささやいた。



 二人とも、一瞬驚いた様子だったが、その表情が緩んで涙顔になるのにそう時間は掛からなかった。




 そして無事に式が終わった。




 そしてホールの出口に四人が並んだ。感謝の気持ちで参列者を見送る時間だ。



 俺は営業対応に徹して一人一人にお礼の言葉を伝えていた。

 もう一人の卓も、同様だった。



 史絵の元へ忠史が来た。忠史は史絵の両手を取り、小さな涙声で、

「すまなかった……おめでとう!幸せにな」

 と告げて去って行った



 彩夏の元へ由梨が来た。由梨の表情は変わらず涙顔だった。

 そして、由梨は彩夏を抱きしめた。

「ごめんなさい……………」「……幸せになってね」と言うのがやっとの様だった。

 そして別れを惜しむように去って行った。


 その後も、彩夏も泣きっぱなしで参列者を見送っていた。





 

 その後の二組の新家庭は、以前とあまり変わる事はなく、地道にそして幸せに暮らしています。






 それから三年が経ち、


 卓と史絵は、卓が本社勤務になり東京で暮らしています。史絵の仕事も忙しい訳では無いが、そんなに暇でもない様子だ



 心配された優留のおたまじゃくしも彩夏に届ける事が出来て、来年早々には新しい家族が増えそうです。




                    ――終わり――











  ――あとがき――


 今まで読専だった私が、無謀にも初めて書いてみました。

 書くのがこんなに大変だったと思い知らされました。

 今まで、先輩作者様方々の作品を軽々しく読んでいた事を大いに反省致しました。


 今回の作品を自分で読み返してみて、あらすじの不備、表現力不足、台詞下手、句読点の使い方等々たくさんの反省点が見られます。先の話の事をあまり考えず、行き当たりばったりと話しを進めた事も反省です。あとで、つじつまが合わなくなって投稿済の前話を修正する事に成り、反省ばっかりです。

 

 こんな作品でも読んでくれた読者には、感謝の言葉しかありません。ありがとうございました。


 もう少し勉強して又トライしてみたいと思っています。

 その時は、どうぞよろしくお願い致します。

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家族追惜が続く男の家に舞込んだ女子高生 賭夢 @wasa58min78

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