第22話 生中継

 時は過ぎて新緑が眩しい翌年のG/W最終日。昨日まで降っていた雨も上がって清々しい朝を札幌で迎えた。

 今、ホテルの部屋に夫婦でいる。今日の良き日の為に昨日から宿泊した。昨夜は久しぶりの外泊と言う事で彩夏の方から求められた。自然な事だけど、最近、夜の彩夏は徐々に開発されてすっかり女の彩夏である。




 本日は、二組四人の、目出度い門出の日である。

 俺は朝から落ち着きが無いらしい。妻の彩夏に指摘された。



 思い返せば、俺の一度目の結婚は紗枝にウエディングドレスを着せて挙げられなかった。正確にはウエディングドレスドレスを着た紗枝、七五三風のドレスを着た史絵、タキシード姿の俺の三人の集合写真だけが残っていた。


 俺はその集合写真を撮った時、心に誓った。

 史絵のお祝いの時は、必ずウエディングドレスを纏わせ、皆から祝福してもらおうと。

 勿論、彩夏にプロポーズしたときも、彩夏に対するドレスの思いは同じだった。



 春日井家の希望で、札幌のホテルで挙式と披露宴をする運びになり、ついでと言ったら彩夏に怒られるので口が避けても言えないけど、良い機会だからと言って我々と一緒に、合同結婚式を挙行する運びとなった。



 さっき、彩夏の着付けの部屋と史絵の着付けの部屋を覗いてきたが、二人とも凄く綺麗だった。


 彩夏は、にこにこ顔で迎えてくれた。そして

「優留……さん、今日は頑張ろうね」

「これからもよろしく」と言った。


 史絵は、俺の顔を見るなり綺麗にした化粧が崩れる位の涙を流し、俺は其の場の椅子に座らされ、

「お父さん、長い間お世話に成りました」

「幸せになります」とぽつぽつと言われた。


 俺は

「おう、お互いにな」と笑って答えたが、俺の涙腺も崩壊寸前だった。




 * * * * * 




 史絵は、学生を続けることにしたそうだ。

 就活はしないで、起業するみたいだ。もう準備を進めているらしい。

 去年、あれから自分を見つめ直し、昔から好きで大得意だった語学力を生かしフリーランスの翻訳家を目指す様だ。

 卓は運よく札幌支店配属となり史絵が学生の内は札幌に居れるそうだ。しかし転勤族の裃は脱げないみたいだ。史絵は拠点をパソコンにするので、転勤族に何処までも就いていく覚悟だそうだ。




 * * * * * 




 そして挙式と披露宴が始まった。


 三家の親族、親戚の見守る中、ホテル内のチャペルで挙式を挙行した。最初に神父さんの前に進んで立ったのは卓、続いて腕を組む俺と史絵、卓に史絵を預けると、俺は少し間を置いてその横に立った。それから彩夏が添われて入って来た。彩夏の父親の代わりは春日井のお父さんを頼んだ。そして俺の横に立った。それから例に習って、賛美歌斉唱、神父さんの聖書朗読、誓約、指輪交換、キス等が済み、四人が皆に送られて挙式が終了した。

 四人とも緊張していたので、感慨は無かったかもしれない。



 少しの休憩をはさんで披露宴が行われた。


 四人の入場から始まって、次第は司会のお姉さんによって進められた。


 四人の関係や各人の学歴や職歴等を、業務の一環として枝葉を付け印象が良い様に紹介してくれた司会のお姉さん。


 次に来賓の挨拶の項となった。

 電力会社専務、斎藤税理士、小野寺建設工業社長の順で祝辞が述べられた。


 専務は、春日井父の上司である。

 北島家サイドでは肩書の持つ人がいなかったので、齋藤さんにお願いした。

 小野寺家からは、彩夏の亡き父の従弟にお願いした。

 従弟さんは、故幹士さんの会社を引継ぎ、今では地元では知名度の有る会社にまでしていた。智恵さんも幹士さんから相続した株を保有していて毎年配当金が入っているそうだ。



 挨拶が終わった所で、司会のお姉さんが、


「皆様にご報告が御座います」

「実は、この披露宴の模様は、先程行われた挙式も含めて生中継されています」

「全国放送では御座いませんが、新婦彩夏様のお母さま小野寺智恵様宅へ中継されております」


 ――会場が騒めいた――




 * * * * * 




 あれは日取りが決まって間もなくした去年の秋の日だった。

 結婚式をする事と日取りが決まって、その報告と出席のお願いに二人で小野寺家を訪ねた日でした。


「また報告が後になってしまって云々・・・」と、


 全部話をしてお願いをした後、智恵さんは、


「実は、今お腹の中に…………」と言い出して、

 それからゆっくりと話し始めた。


 次の様な話だった。

 最近、前山の子を身ごもった事が分かった事、出産予定日は来春の五月中旬だと言う事。

 そして、生まれてくる子供の為に、両親が同じ姓の方が良いので出産前には前山の籍に入る事。

 しかし、彩夏は小野寺家から嫁に出したいので、その前に、彩夏を入籍させてほしいと、俺に申し出たいと思っていた事。


 その後、智恵さんは、

「うーん……その頃の私は臨月ですね……多分出席は……」と残念がった。


 俺は、

「すいません、いつも報告が後になってしまって」と謝った


「私の花嫁姿、一番お母さんに見て欲しかった」と彩夏が少し悔し気に言った。


「………………」


 少し考えた後、俺は苦肉の策が閃いた

「すいません、挙式と披露宴をライブ中継しますので、それで許してください」


「ありがとうございます。それだけでも十分嬉しいです」と言って、智恵さんは少しほっとした様だ。


 その年の年末に、俺は、結納とは別にかなり大型のテレビとWebカメラを小野寺家の居間に設置した。


 そして、入籍の日を決める相談を二人でした結果、どちらの誕生日も智恵さんの出産予定日の後だったので、結局彩夏が俺の家に救助を求めに来た十二月一日を結婚記念日としてその日に二人で市役所に行った。





 * * * * * 




 続けて司会のお姉さんは、

「今お母様は、間もなくこの世に新しい命を誕生させる大事な時期でありまして、残念ながらこの場に同席出来なく、中継の運びに成りました事も併せてお知らせ申し上げます」そして、

「ここで、新婦彩夏様のお母様であります、小野寺智恵様よりお祝いのお言葉を頂きたいと思います」

「皆さま、正面のスクリーンに注目をお願い致します」


 スクリーンに智恵さんが映っている。マタニティを着ている様だが、正装っぽい。お腹が余り映らない様に顔を中心にカメラセットされているので、必然的に涙で念入りにしたと思われる化粧が崩れている。しかし満面の笑顔で映っている。

そして口を開いた。


「彩夏、おめでとう。挙式からずっと見ていたよ。良かったね初恋の優留さんと一緒になれて、これからも仲良くね、そして優留さん、彩夏をよろしくね」

「そして、もう一人の卓さん、史絵ちゃん、も、おめでとう」


 涙の会見の映像が終わったら、参列者全員からの拍手は中々鳴りやみませんでした。




 卓の会社の支店長の音頭での乾杯で宴会が始まり、ケーキ入刀などが順に行われ二つのケーキにそれぞれの夫婦で刀を入れた。もうその時は二人の花嫁は笑顔で、儀式を楽しんでいる様にも見えた。


 スピーチは、新郎新婦の友人代表四人がそれぞれ順に喋ってくれた。卓の大学時代の友人、史絵の高校のバド部の友人つまり卓の妹、俺のスキー選手時代のライバル、そして佳奈子の順で行われた。

 男子達のありきたりのスピーチに比べ、卓の妹は自分がいなかったら、こう言う事には成っていなかったと、キューピット役を強調して参列者の笑いを誘った。佳奈子も、大学の学食で遠巻きの男子達のバリアーになって、虫がつかない状態で新郎に彩夏を渡せたとか、笑いを取ろうとしている様だ。


 二人の新婦がお色直しの為、一時退場中は、雛壇の新郎には祝福のお酌が容赦ない。舞台では歌に自信のある人の喉自慢、学生や、元学生のグループによるフォーマンス等々、余興が続いた。


 そして、キャンドルサービスになった。順番に回り、貴賓席に着いた時、参列者の中で誰も顔見知りでない年配のカップルらしき男女から、俺は頭を下げられた。その顔は泣いていた。特に、女性の方はボロ泣き寸前を堪えている様だった。


 その頃、旭川でも、中継画面に映った女性を見て、ハッとした智恵さんがいた。

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