#41 ラノベ・バイ・リア充
水曜日朝、8時。僕は父母と共に朝食をとりながら、きょうのスケジュールを確認していた。
昨日は
肉体労働でなくても、頭を1日中フルに動かすって、結構疲労するものなんだな。
これまであまり頭脳を使わずに、のほほんと過ごして来た、そのツケが来たということかもしれないが。
とは言え、この新しいアルバイト体制は1ヶ月半くらいも続くわけだから、無理をして身体を壊しては元も子もない。頑張るにせよ、ほどほどにしとかないとな。
いずれにせよきょうから、本格的に姫子の家庭教師が始まる。
僕は一昨日、同学年の
とりあえず、一球投げておくか。すぐに返ってくるかどうかは分からないが。
そう考えた僕は、さっそくスマホを取り出して、メールを打ち始めた。
「濱田くん、こんちは。モブです。きみにメールするのは初めてかな。アドレスは水城から聞きました。
きみとは最近、あまり授業で会う機会がないね。
一昨日、水城と同じ授業で会って、きみの近況を聞きました。ライトノベルで作家デビューしたそうだね。おめでとう。
僕も以前はライト文芸サークルという同好会にいて、ラノベのようなものを書いていたから、きみの快挙にはとても興味があります。というか、とてもうらやましいというのが本音かな。
今度、きみのデビューまでのいきさつを聞かせてくれませんか。
ライトノベル業界って、最近急に作家志望者が増えて激戦区だというのは聞いてます。
でも僕も、学生でいるうちにまた小説を書いてみようかと思っています。出来れば、コンテストなどにも挑戦してみたいし。
ぜひ僕に、成功の秘訣を聞かせてください。
そのうち学内で会えたら、声をかけてもらえるかな。よろしく。
メールを発信、僕はひと息ついた。
このメールでは「いつ会おう」みたいな具体的な話は、あえて出さなかった。わざわざアポをとって濱田に話を聞くというのではなく、「たまたま会えたらでいい」というニュアンスにしておいた。
これなら、彼も気が楽というものだろう。偶然会えた時に僕に話せばいいのだから。
さて、きょうの授業は2限目からだ。予習の続きをしようと、僕は腰を上げて自室へと向かった。
⌘ ⌘ ⌘
大学の授業は、2コマ目の3限で終わった。僕はその足で、近くにある書店「
『話を作者に聞く以上は、きちんと予習しておかないとな』
僕はそう考えながら、ライトノベルの文庫が並んだ棚へと近づいた。この店にはラノベの
「出版社は…うーんと、
僕は「九段ラノベ文庫」と書かれたプレートが挿されたあたりを注視した。
タイトルは「いもうとが僕の恋のジャマばかりするんですけど!」だったよな。最近のライトノベルはやたら長いタイトルのものが多いなか、これは比較的シンプルで覚えやすいほうなのがありがたい。
背表紙のタイトルを目で追ううちに、おっ、あった! 新刊だからとりあえず1部は注文を入れたんだろうな。まだ売れずにいた。ラッキー。
僕はポニーテール少女の表紙イラストを確認、さっそく本をレジへ持って行き、購入した。
僕はそれから、書店からほど遠くないコーヒーショップ「シャブラン」に入った。セルフサービス制のチェーン店だ。
カウンターでアメリカンコーヒーを注文し、出来たそれをトレイに乗せて空いている席に座る。
買ってきた文庫本を取り出して、読み始める。
冒頭のカラー口絵で登場人物の紹介がされていたので、まずはそれをチェック。
主人公は、男子高校生の
彼はその名の通り、容姿も才能もごくごく平均的で、格別の欠点もないが突出したところもない。妹には甘いところがあるが、特にシスコンというわけではなく、普通に恋をしたいと思っている。
まるで、僕茂部
その彼の妹が、兄とは対照的に才色兼備のスーパー美少女だが、ちょっとクレージーなところのある
彼女は兄の恋路をことごとくぶち壊しにしてしまう「クラッシャー・ユミナ」の異名をとる女。
しかし、ただの兄大好きなブラコン妹ではなく、ちょっとしたワケがありそうで…。
そんな感じで、平
小説本編は会話中心でサクサクと読める、いかにも人気の出そうな軽い文体で書かれている。2、3日、空き時間に少しずつ読んでいけばすぐに読み終わりそうな感じだ。
とりあえず僕は、最初のチャプターだけを読み終えた。
この1話では、妹の破壊工作活動がショーケース的に描かれるだけで、謎の核心に触れるような展開はなかったが、それは話数を重ねるにつれて次第に踏み込んでいくのだろう。
由実奈は頭のネジがぶっ飛んだ発言が多いものの、基本的にはどこか憎めない、可愛げのある性格で、それがよくある暴力ヒロインたちとはひと味違って「恋路はジャマされちゃったけど、この妹なら許せてしまうな」と思わせるだけのキャラクター造型がきちんと出来ている。
その辺は、ネット小説サイトにゴマンとある、テンプレなブラコンラブコメとは一線を画しているところだと感じた。
つまり、妄想を書き連ねた絵空事ではなく、リアルな恋愛もちゃんと経験して、女性心理もそれなりに分かっている男性でなくては書けない、そういう小説なのだ。
ある意味、ラノベを越えたラノベとも言えた。
その辺をプロの編集者に見込まれての、メジャーデビューなのだろう。
濱田の作品の、予想した以上の出来ばえに一抹の羨望を覚えつつも「負けてはいられない」と闘志を燃やし始めた僕だった。
⌘ ⌘ ⌘
定刻の午後4時に間に合うよう、僕は早めに電車に乗り、
「ヤッホー、モブ先生。待ってたよー!」
そう言って手を振りながら寄ってきた姫子が着ていたのは、まだ冬場だというのに、なんとビキニスタイルの銀色の
形のいいおへそが丸出しである。胸も予想以上のボリュームがあって、ブラから
ビキニアーマーっていうんだっけ、これ。
「き、き、きみ、なんでこのスタイル?!」
度肝を抜かれた僕が噛みながら尋ねると、姫子はさらりと答えた。
「あ、これ? 今度、卒業生を送る会があるんですけど、在校生で寸劇をすることになったんです。
で、その衣装が出来てきたんで、さっそく合わせてみてたんですよ。
どう、姫子に似合ってます?」
「あ、あぁ……じゃなくって、それちょっと、目の毒だからぁ!!」
正直言って、そのビジュアルはもの凄い破壊力だった。
姫子のフリーダム
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